本文でベンチマーク名に出会ったら、ここへ戻って中身を確かめてください。初めての読者は、Ⅱ節の「指数を読む五つの軸」と節末の小辞典から。急ぐ読者は、各表の「思想の一行」列だけを縦に読むと、指数間の違いの地図が掴めます。数値例1〜3(除数・ロールコスト・配当と税の複利)と、図解7点——浮動株調整(図1)・除数と値嵩株(図2)・WGBIの編入除外の歴史(図3)・ロールの仕組み(図4)・ETFの二層流動性(図5)・思想の地図(図6)・版種の複利(図7)——が、本要覧の骨格です。ベンチマークを内規に書く実務には、Ⅹ節の「四つの指定」(表8)が最短の入口です。
規模や構成比は変わり続けます。本要覧の数値は概数と基準時点で止めてありますので、意思決定に使う際は原典(算出者のメソドロジー文書・ファクトシート)に当たってください。誤り・陳腐化の指摘は歓迎します——この要覧は、版を重ねる前提で綴じられています。
本書は指数を、常に論点の側から使ってきた。ベンチマーク統治の文脈でトラッキングエラーを、参照点の統治(論考別紙〔参照点の統治〕)の文脈でカスタムの階段を、計測の文脈でヘッジファンド指数のバイアスを。本要覧はその逆引きである——指数の側から、中身と思想を一望する。収載基準は、本書に登場する指数と、日本のアセットオーナーが実務で出会う代表的な指数である。網羅ではなく、実務の登場人物の名鑑である。
なぜ「思想」なのか。すべての指数は、設計の瞬間に一つの問いに答えている——市場とは何か。その何を写すのか。時価総額で全体を写すのか(市場の合意の追認)、投資可能なものだけを写すのか(複製する者の視点)、委員会が代表を選ぶのか(編集の視点)、規則が質を選ぶのか(設計の視点)。答えが違えば、同じ「株式」「債券」の名を冠していても、中身は別の戦略である。アセットオーナーが指数を選ぶことは、この思想を選ぶことにほかならない——本要覧が「思想の一行」列を全表に置く理由である。
各表には連動・参照資産の目安を付した。確度は四段階で明示する——◎=算出者・採用機関の公表値(自己申告であることに注意)、○=連動商品(ETF・投信等)の残高集計からの推計、△=報道・オーダー感のみ、—=投資不能または「連動資産」という概念が成立しない。数値はすべて概数・2020年代半ば基準であり、毎版更新の対象である。なお「参照」(ベンチマークとして使われる資産)と「連動」(パッシブに複製する資産)は別の概念であり、公表値はしばしば両者を合算している——この区別自体が、Ⅱ節の第四軸(投資可能性)の教材である。また本版から、主要な個票カードに構成比の横棒グラフと「見直し」欄(定期見直しの頻度・日程)を添えた。グラフは番号を持たない——番号付きの図1〜7は本文の仕組み図・年表であり、カード内グラフはカード本文と同じ概数の視覚化にすぎない。各グラフにデータ時点の目安を記したが、数値の正は、あくまで算出者の原典である。
指数のメソドロジー文書は数十頁に及ぶが、読むべき骨格は五つに絞れる。本要覧の全記述は、この五軸に沿う。
第一軸 ユニバースとカバレッジ——何を含み、何を含まないか。国の範囲(先進国/新興国の分類は算出者ごとに違う)、規模の範囲(大型のみか、小型まで含むか)、除外基準(流動性・上場年数・浮動株比率の下限)。カバレッジの差は、そのまま成績の差になる——小型株を含む指数と含まない指数は、小型株効果の分だけ恒常的に乖離する。
第二軸 加重方式——構成銘柄をどんな重みで持つか。時価総額(市場の合意を写す)、浮動株調整後時価総額(買えるものだけを写す)、価格(一株の値段で重みが決まる——歴史的遺物)、発行量(債券——借りた者に比例する)、生産量(コモディティ——経済的重要性)、等金額・ファンダメンタル・リスク量(設計で選ぶ)。加重は、思想の最も濃い表現である。
第三軸 メンテナンス——見直しの頻度、編入・除外のバッファールール(出入りの頻繁な入替えを防ぐ緩衝帯)、そして規則型か委員会型か。規則型(Russell・CRSP・TOPIX等)は基準を機械的に適用し、委員会型(S&P 500・日経平均等)は最終判断に人間の裁量を残す。規則型は予見可能だが先回り取引に弱く、委員会型は柔軟だが説明責任の構造が異なる——どちらが優れているかではなく、どちらの弱点を引き受けるかの選択である。定期見直しの頻度・日程は各カードの「見直し」欄に記した——粗い地図としては、株式は四半期・半期、債券は毎月末、コモディティは年次のウェイト改定に毎月のロール、である。公表された見直し日程は、複製する全員の売買日程でもある(Ⅸ節(四)の混雑の論点)。
第四軸 投資可能性と複製費用——その指数は、実際に買えるか。流動性スクリーンの厳しさ、構成銘柄数、回転率(高いほど複製費用が嵩む)、そして連動資産の規模(大きいほど商品と流動性の裾野が厚い一方、リバランス時の混雑も大きい)。ヘッジファンド指数のようにそもそも買えない指数は、この軸の端に位置する——買えない指数をベンチマークにすることの意味は、Ⅶ節で論じる。
第五軸 統治——誰が算出し、規約の変更はどんな手続で行われ、意見募集(コンサルテーション)はあるか。指数の規約は将来も同じである保証がない——規約の重大変更は、採用者にとって事実上の配分変更である(Ⅸ節)。
株式指数の主流は浮動株調整後の時価総額加重に収斂した。この方式の思想は明快である——市場の合意(時価総額)を、買える範囲(浮動株)で写す。理論的な裏書き(市場ポートフォリオ——伝統編第1章)と、複製費用の低さ(売買が価格変動に自動追随し、リバランスがほぼ不要)を兼ね備える。だが裏面も公知である——時価総額加重は上がった銘柄を自動的に多く持つため、勢いへの追随を構造として内蔵する。集中が進む局面では、分散のための指数が少数銘柄への集中装置になる。この緊張は方式の欠陥ではなく、「市場を写す」という思想の定義的な帰結である——市場が集中すれば、写し絵も集中する。
主流の方式を名乗る以上、浮動株調整の具体的な手法は知っておく価値がある。手順は三段である。第一に、発行済株式のうち市場で売買される見込みのない持分——政府・自治体の保有、親会社・グループ会社の持分、創業家・役員の持分、持合い株式、自己株式——を、大量保有報告・有価証券報告書等の開示から銘柄ごとに積み上げる。第二に、それを除いた比率を浮動株係数(フリーフロート係数)として推定する。第三に、時価総額にこの係数を乗じた浮動株調整後時価総額でウェイトを計算する(図1)。発行1億株・株価1,000円(時価総額1,000億円)の銘柄で、親会社が40%・持合いが10%を握っていれば、係数は0.5——指数のなかで、この会社は500億円の会社として扱われる。「市場全体を写す」と言うときの「全体」は、はじめから編集されているのである。実務の細部を二つ。係数は連続値のまま使わず、刻みに丸めて公表・適用されることが多い(MSCIの係数の丸め、FTSEの系譜のバンド方式)——保有比率の小刻みな変動のたびに世界中の連動資金が売買することを防ぐ、第三軸のバッファールールと同じ知恵である。そして係数は定期見直しで更新され、更新自体が売買を生む。日本は政策保有・持合いの厚みゆえ、この調整の影響が主要市場で最も大きい部類に属する。TOPIXが独自に定義する「流通株式比率」——政策保有分の控除を明示した、いわば日本版の浮動株概念——は、調整の設計自体が市場の構造への応答であることの実例である。
グローバル指数の二大系列(MSCIとFTSE)は、思想が近い分だけ、細部の違いが教材になる。最も有名な違いが国の分類である——韓国をMSCIは新興国に、FTSEは先進国に分類する。ゆえに「新興国株式パッシブ」という同じ名前の商品が、算出者によって韓国を含んだり含まなかったりする。同じ資産クラス名の下に、別の中身がある——本要覧の中核命題の、最も単純な実例である。カバレッジでは、小型株まで含む系列(ACWI IMI・FTSE Global All Cap)と大中型のみの系列(ACWI)の区別が実務上重要で、日本の公的年金の外国株式ベンチマークには小型株込みの系列が採用されている。
米国では三つの思想が並走する。S&P 500は委員会型——収益性等の基準を満たす銘柄から、委員会が「米国大型株の代表性」を編集する。Russell系は規則型——時価総額の順位が全てを決め、毎年の再構成は完全に予見可能である(それゆえ再構成日の先回り取引が最も研究された指数でもある)。CRSP系は学術データベースの系譜から生まれた規則型で、大手パッシブ運用会社の基幹ファンド群に採用されている。三者の成績差は僅かだが、思想の差——編集か、機械か——は統治の差であり、規約変更や例外時の挙動の差として現れる。
日本は、一国に三つの思想が同居する稀な市場である。TOPIXは「市場全体を写す」規則型で、2022年からの改革(流通株式基準による段階的ウェイト調整)は写す対象を「買える部分」へ純化する動きである。日経平均は価格加重——一株の値段が重みを決める報道時代の設計——の現役の遺物であり、値がさ株数銘柄への寄与集中という構造的な癖を持つ。それでも先物・オプション・連動商品の厚みが事実上の国民的指数の座を支えている。JPX日経400はROE等で銘柄を選別する「質の指数」で、写すのではなく選ぶ思想の国産の実例である(Ⅳ節の系譜に属する)。
価格加重の内部構造は、除数(divisor)を知らないと読めない。価格加重指数は「構成銘柄の株価の合計 ÷ 除数」で計算され、除数の仕事は連続性の維持である——株式分割・併合・銘柄入替のたびに指数の水準が跳ばないよう、除数の側を調整する(数値例1・図2)。この設計の帰結が値嵩株の支配である。時価総額加重では企業の大きさが影響力を決めるが、価格加重では一株の値段——つまり株式の切り方——が影響力を決める。企業価値と無関係な株式分割という形式的な行為が、指数のなかの発言権を変えてしまう。日経平均が「みなし額面」から株価換算係数へと補正装置を重ねてきたのはこの癖への対処であり、それでもなお値がさ数銘柄への寄与集中が残る(カード参照)。同じ設計の米国ダウ工業株30種では、百年分の分割調整が堆積して除数が1を大きく割り込み(0.15前後の概数)、除数は事実上の乗数として働く——構成銘柄の株価が1ドル動くと、指数は6〜7ポイント動く。時価総額最大の企業が指数への影響力最大とは限らない、という価格加重の逆説は、ここから機械的に生じる。
3銘柄の価格加重指数を考える。株価はA=30,000円・B=10,000円・C=5,000円、除数は3とする。
数値は模式値である。含意——価格加重指数の構成銘柄の重みは、企業の大きさでも代表性でもなく、株式の切り方の歴史である。除数はその歴史の記録装置であり、ダウの除数(0.15前後)は百年分の調整の堆積である。
| 指数(算出者) | 思想の一行 | 加重・型 | カバレッジ | 連動・参照資産の目安 |
|---|---|---|---|---|
| MSCI ACWI/World/EM | 買える世界を、投資家の視点で写す。国分類の事実上の立法者 | 浮動株時価総額・規則+分類判断 | 先進23+新興24市場前後・大中型 | MSCI指数全体への連動・参照は十数兆ドル規模と公表◎ |
| MSCI EAFE | 米国の投資家の「除く自国」の古典。国際分散の物差しの原点(1969年) | 浮動株時価総額・規則+分類判断 | 北米を除く先進21市場・大中型 | 米国の国際株マンデートの標準参照(連動・参照数兆ドル規模○) |
| MSCI KOKUSAI/FTSE Kaigai | 日本の投資家の「除く自国」の既定形。ローマ字名は日本市場のための命名 | 浮動株時価総額・規則型 | 先進国から日本を除く(22/24市場前後)・大中型 | 日本のDC・企業年金の外株パッシブの標準(国内連動で十兆円規模○) |
| FTSE Global All Cap(FTSE Russell) | 同じ思想の対抗軸。小型株まで含み、韓国を先進国に置く | 浮動株時価総額・規則型 | 全世界・大中小型約1万銘柄 | 日本の公的年金の外株基本ベンチマーク(数十兆円規模の国内連動○) |
| S&P 500(S&P DJI) | 委員会が編集する「米国の代表」。規則と裁量の併用 | 浮動株時価総額・委員会型 | 米国大型500銘柄 | 連動・参照あわせ十数兆ドル規模と算出者が公表◎ |
| Russell 1000/2000(FTSE Russell) | 機械が引く大型・小型の境界線。完全に予見可能な再構成 | 浮動株時価総額・規則型 | 米国の上位1000/次の2000 | 約10兆ドル規模が参照と公表◎ |
| CRSP US系(CRSP) | 学術データベースの厳密性を商品化した規則型 | 浮動株時価総額・規則型(移行バンド) | 米国ほぼ全銘柄 | 大手パッシブの基幹ファンド群で数兆ドル規模○ |
| TOPIX(JPX総研) | 日本市場の全体を写す。改革で「買える部分」へ純化の途上 | 浮動株時価総額・規則型 | 旧一部→流通株式基準で段階調整中 | 連動ETF・投信で数十兆円規模○(日銀保有ETFを含む) |
| 日経平均(日本経済新聞社) | 報道時代の設計の現役の遺物。値段が重みを決める | 価格加重(除数調整)・委員会型 | 225銘柄・入替に裁量 | 連動ETFで十数兆円規模○ |
以下、各指数の個票カードを置く。数値はすべて入手可能時点(2020年代半ば)の公表値の概数であり、毎版更新の対象である——最新値は必ず算出者のファクトシートで確認されたい。
構成 先進23+新興24市場・約2,500銘柄(大中型)。世界の投資可能時価総額の約85%をカバー。
国別上位 米国 約65%/日本 約5%/英国 約3%/中国 約3%/カナダ 約3%。
セクター上位 情報技術 約25%/金融 約16%/ヘルスケア 約10%。
特性値 上位10銘柄比率 約2割(米メガテックに集中)。派生版=World(先進のみ)・EM(新興のみ)・IMI(小型込み・約9,000銘柄)。
見直し MSCI標準——四半期レビュー(2・5・8・11月)。2023年以降は毎回が包括見直しである(それ以前は5月・11月のみが半期の大規模見直しだった)。
構成 先進23市場・約1,400銘柄(大中型)。
国別上位 米国 約72%/日本 約6%/英国 約4%/フランス 約3%。
特性値 上位10銘柄比率 約25%——「世界分散」の名の下の米国集中と少数銘柄集中が、時価総額加重の思想の帰結として最も見えやすい指数。
見直し MSCI標準——四半期レビュー(2・5・8・11月)。2023年以降は毎回が包括見直しである(それ以前は5月・11月のみが半期の大規模見直しだった)。
構成 新興24市場・約1,300銘柄(大中型)。
国別上位 中国 約27%/インド 約19%/台湾 約19%/韓国 約12%/ブラジル 約4%。
特性値 最大構成銘柄は台湾の半導体受託大手で単独約9%。中国比率は編入比率の政策(部分編入係数)で管理されており、国別構成が算出者の判断変数であることの実例。韓国を含む(FTSEとの分類相違——本文Ⅲ節)。
見直し MSCI標準——四半期レビュー(2・5・8・11月)。2023年以降は毎回が包括見直しである(それ以前は5月・11月のみが半期の大規模見直しだった)。国の分類変更は観察リストで予告される。
構成 欧州・豪亜・極東(Europe, Australasia, Far East)——先進国から北米(米国・カナダ)を除いた21市場・約700〜800銘柄(大中型)。
国別上位 日本 約22%/英国 約15%/フランス 約11%/スイス 約10%/ドイツ 約9%。
特性値 1969年算出開始——国際分散投資を初めて一本の物差しにした、国際株指数の原点(キャピタル・インターナショナルの系譜)。米国の投資家にとっての「除く自国」であり、日本の「除く日本」外株(Ⅹ節)の鏡像。米国の年金・エンダウメントの国際株マンデートでは半世紀にわたり標準の参照点であり続けている。日本が最大構成国である点は、日本のアセットオーナーが自国を除いて作る物差しとの対照として覚えておく価値がある。
見直し MSCI標準——四半期レビュー(2・5・8・11月)。2023年以降は毎回が包括見直しである(それ以前は5月・11月のみが半期の大規模見直しだった)。
構成 MSCI World(先進23市場)から日本を除いた22市場・約1,200銘柄(大中型)。
国別上位 米国 約77%/英国 約4%/カナダ 約3%/フランス 約3%。
特性値 名称のKOKUSAIはローマ字の「国際」——日本の投資家のために編まれ、日本市場でだけ通称として生きる指数名(正式にはWorld ex Japan)。企業年金・DC(確定拠出年金)の外国株式パッシブの事実上の標準であり、「先進国株式インデックスファンド」と題する国内公募投信の多くが本指数(配当込み・円換算)に連動する——Ⅹ節の「除く日本」の、最も広く持たれている実装。EAFE(米国の除く自国)との対で読むと、除かれる自国が違うだけで米国比率が約77%まで濃くなる——「国際分散」の中身は、どこから見るかで決まる。
見直し MSCI標準——四半期レビュー(2・5・8・11月)。2023年以降は毎回が包括見直しである(それ以前は5月・11月のみが半期の大規模見直しだった)。
構成 FTSEの先進国分類から日本を除いた24市場前後・大中型。名称のKaigaiもローマ字の「海外」——日本市場向け命名の対の実例。
特性値 構成はKOKUSAIと大部分重なる(国別グラフはKOKUSAIカード参照)。相違は分類の相違の再演——韓国・ポーランドを含む(FTSEは両国を先進国に分類、表2)。同じ「先進国株式(除く日本)」を名乗る商品が、算出者によって韓国を含んだり含まなかったりする——表2の相違行が、日本の個人・年金の机の上まで届いている実例であり、国内のDC・公募インデックス投信の一部が採用する。
見直し 半期レビュー(3月・9月)。
構成 約49市場・約10,000銘柄(大中小型)。世界の投資可能時価総額の約98%をカバー。
国別上位 米国 約62%/日本 約6%/英国 約4%。韓国は先進国に分類。
特性値 小型株込みの全世界一本——日本の公的年金の外国株式ベンチマーク(除く日本版)としての採用が、日本の実務での最大の存在理由。
見直し 半期レビュー(3月・9月)。
構成 米国大型503銘柄(500社)。委員会選定・収益性基準あり。
セクター上位 情報技術 約3割/金融 約13%/ヘルスケア 約1割。
特性値 時価総額 約50兆ドル。上位10銘柄比率 約35%——一国の代表指数として歴史的な高集中。予想PER 約22倍(概数)。世界で最も参照される単一指数であり、先物・オプション・ETFの流動性の裾野が最も厚い。
見直し 銘柄入替は随時(委員会判断・欠員発生時等)。株数・浮動株の更新は四半期(3・6・9・12月の第3金曜)。
構成 米国の時価総額上位1000銘柄(大型・市場の約93%)/その次の2000銘柄(小型・約7%)。
特性値 毎年6月の再構成が完全に規則的・予見可能——小型株の物差し(Russell 2000)は米国アクティブ運用の最標準ベンチマークの一つで、再構成日前後の売買は指数現象研究の古典的な題材。
見直し 年1回・6月末の再構成(IPOは四半期ごとに追加)。近年、再構成の年2回化(6月・11月)への移行が公表されている。
構成 米国ほぼ全銘柄・約3,600銘柄。
特性値 学術データベース(シカゴ大学系)の系譜。規模区分間の移動にバンド(緩衝帯)を設け回転率を抑える設計。世界最大級のインデックスファンド群(バンガードの基幹ファンド)の採用指数。
見直し 四半期。移行を複数日に分散させる規約——再構成日の混雑(インデックス効果)の緩和を設計に明示した例。
構成 約2,100銘柄——2022年改革により流通株式時価総額100億円基準で段階的に絞り込みの途上。
国別・特性値 時価総額 約1,000兆円。最大構成銘柄はトヨタ自動車で約4%・上位10銘柄比率 約2割——主要国の市場指数として集中度が低い部類であり、これ自体が日本市場の構造(裾野の広さと巨大銘柄の不在)の写し絵。
連動 日銀保有ETF(簿価数十兆円規模)を含め、日本で最も多くの資金が連動する物差し。
見直し 流通株式比率は年次で定期更新。市場改革に伴うウェイトの段階調整は四半期末に分割実施。
構成 225銘柄・価格加重(みなし額面・除数調整)・年2回の定期入替(銘柄選定に裁量)。
特性値 寄与度上位への集中が構造的な癖——値がさ株1銘柄で約1割、上位数銘柄(衣料小売・半導体関連)で2割超の時期がある。時価総額加重のTOPIXと約4割の銘柄しか重みの順位が整合しない別世界であり、「日本株」という同じ言葉の下の二つの指数の乖離(NT倍率)自体が市況指標になっている。
見直し 定期入替は年2回(4月・10月)。除数・株価換算係数の調整は分割等の都度(数値例1)。
最後に、グローバル指数の実務で最も頻繁に引かれる対照——MSCIとFTSEの国分類——を一覧にする(表2)。両者の分類は大部分で一致する。だからこそ、相違の数行が「同じ名前の別商品」を作る。
| 市場 | MSCI | FTSE | 備考 |
|---|---|---|---|
| 米国・カナダ/日本・香港・シンガポール・オーストラリア・ニュージーランド/英国・アイルランド・フランス・ドイツ・オランダ・ベルギー・オーストリア・スイス・イタリア・スペイン・ポルトガル・スウェーデン・ノルウェー・デンマーク・フィンランド・イスラエル(23市場) | 先進国 | 先進国 | 両者一致——世界の先進国株の物差しはこの23市場でほぼ重なる |
| 韓国 | 新興国 | 先進国(2009年昇格) | 最大の相違。「新興国株式パッシブ」が算出者で中身の違う商品になる主因(本文・EMカード) |
| ポーランド | 新興国 | 先進国(2018年昇格) | FTSEが新興国から先進国へ引き上げた近年の例 |
| 中国・台湾・インド・インドネシア・マレーシア・フィリピン・タイ/ブラジル・チリ・コロンビア・メキシコ・ペルー/チェコ・ハンガリー・ギリシャ・トルコ・エジプト・南アフリカ/サウジアラビア・UAE・カタール・クウェート(22市場) | 新興国 | 新興国 | 両者一致(FTSEは先進新興/一般新興に細分) |
| ルーマニア | フロンティア | 新興国(2020年昇格) | 新興国の下側の境界でも分類は割れる |
| 集計(概数) | 先進23・新興24 | 先進25前後・新興25前後 | 市場数は概数・毎版更新対象。アルゼンチン・ベトナム等のフロンティア・単独分類は割愛 |
この表から読むべきことは三つ。第一に、分類は市場の物理的な性質ではなく、算出者の規約と市場アクセス審査の産物である——韓国の長年の据え置き(MSCIは為替市場のアクセス等を理由とする)とFTSEの先進国扱いが15年以上並走している事実が、その何よりの証明である。第二に、分類の変更は当該国株式への巨大な資金移動を伴うため、各社は観察リスト(ウォッチリスト)で予告してから実施する——第五軸(統治)の実演であり、採用機関が把握すべき「物差しの規約変更」の代表例である。第三に、実務上の含意——外国株式・新興国株式のマンデートで算出者を跨いで商品を混ぜると、この表の相違行がそのまま意図せざる国配分の差になる。同じ「新興国株式」を二本持ったつもりが、韓国を12%持つ商品とゼロの商品を持っていた、という事態は、この表を一度引けば防げる。
国分類の隣に、もう一つのアクセスの位相がある——同じ国の株式に、買い手の国籍・経路で分かれた複数の入口があるという現象である。先に答えを言えば、これは中国株特有ではない。タイは外国人保有分を別建てで取引する仕組み(外国人ボードとNVDR)を現に持ち、韓国は通信・航空等に外国人保有限度を残す。歴史を遡れば、スイスの記名株・無記名株、北欧の内外投資家区分株が同じ構造であり、分断された側の株式に恒常的な価格差が付くことは金融研究の古典的な題材である。ただし、現代の最大かつ最も精巧な体系が中国であることも確かで、本土のA株(人民元建て。当初は国内投資家限定、いまはストックコネクト経由で開放)、外貨建てで外国人向けに設けられたB株(現在はほぼ遺物)、香港上場のH株、米国のADR——同一の企業に最大四つの入口が並ぶ。なお、米国で見る議決権種類株(クラスA/B)は議決権の二重化であって誰でも買える——ここで論じている「誰が買えるかの分断」とは別の現象である。
指数への含意は二つあり、いずれも本節の既出の装置に接続する。第一に、どの入口を収載するかは算出者の決定である——MSCIの中国はH株・ADR・A株(部分編入係数つき)の複合であり、EMカードで見た部分編入係数は、この入口の選択の調整弁にほかならない。第二に、外国人保有限度は浮動株係数の一部として指数に織り込まれる——「買える部分だけを写す」の「買える」は実は国籍によって違い、国際指数が写しているのは外国人にとって買える部分である。計測の教材としても一つ——A株とH株は同一企業・同一配当への請求権なのに恒常的な価格差が付き、その乖離を測る指数(AHプレミアム指数)が公表されるほどである。裁定が制度で禁じられると、一物一価は破れる。「市場を写す」以前に「どの入口から見た市場か」の選択があること——分断された市場では、写し絵は入口の数だけあること——を、この現象は教えてくれる。資本規制やコネクト機構の各論は、本要覧の射程外である。
「市場を写す」ことをやめ、設計で選ぶ指数の系譜がある。最古のものは等金額加重——全銘柄を同じ重みで持つ——であり、これは時価総額加重への最も単純な懐疑(上がったものを多く持つことへの拒否)の表明である。ファンダメンタル加重(売上・配当等の経済規模で加重するRAFI系)は「価格でなく実体で重みを決めよ」という思想、最小分散はリターンでなくリスクの側から組む思想、そしてバリュー・クオリティ・モメンタム等のファクター指数は、学術研究が同定したリターン源泉(伝統編・第一の水脈)を規則に翻訳した商品である。この系譜の含意と限界——ファクターの言語・データマイニングの危険・干ばつへの耐性——は論考別紙〔ファクターという言語〕が正典であり、本要覧は指数としての骨格のみを記す。
設計で選ぶ以上、設計者の裁量が指数の中身を決める。同じ「バリュー」を名乗る指数がPBRで選ぶかキャッシュフローで選ぶかで別物になり、同じ「最小分散」が推定共分散の作り方で別物になる。この従属性が最も先鋭なのがESG指数である——ESG評価は算出者間の相関が低いことが知られており、同じESGという語の下に、別の思想と別のポートフォリオがある。日本では公的年金が公募でESG指数を選定・採用しており(方法論・利益相反管理を含む評価を経る)、これは「設計で選ぶ指数」の調達に統治の手続を通した先行例として記録に値する。
| 指数(算出者) | 思想の一行 | 加重・型 | 選別の軸 | 連動・参照資産の目安 |
|---|---|---|---|---|
| S&P 500 等金額版 | 時価総額加重への最古の懐疑。全員同じ重み | 等金額・規則型(四半期リバランス) | なし(重みのみ変更) | 連動ETFで数百億ドル規模△ |
| FTSE RAFI系 | 価格でなく経済規模(売上・配当等)で重みを決めよ | ファンダメンタル加重・規則型 | 財務指標 | 数百億ドル規模△ |
| MSCI 最小分散系 | リターンでなくリスクから組む。推定モデルに従属 | 最適化・規則型(制約つき) | 推定共分散 | 数百億ドル規模△ |
| MSCI/FTSE ファクター系 | 学術のリターン源泉を規則に翻訳した商品群 | ファクタースコア加重・規則型 | バリュー・質・勢い等 | 系列合算で数千億ドル規模△ |
| JPX日経400(JPX総研・日経) | ROE等で「稼ぐ力」を選別する国産の質指数 | 浮動株時価総額(選別後)・規則+定性 | ROE・利益・ガバナンス | 連動で数兆円規模○ |
| ESG指数群(MSCI・FTSE・S&P等) | 「写す」から最も遠い設計の極。評価は算出者間で相関が低い | ESGスコア選別・加重各様 | 各社ESG評価 | 日本の公的年金採用分で十数兆円規模◎ |
設計系のうち、等金額・ファンダメンタル・最小分散・ファクター系は同名でも商品ごとに構成が大きく異なるため、個票は置かない(採用検討時は当該商品のメソドロジー文書を直接読むこと——本要覧の五軸がその読み方の型である)。国内で構成が特定できる二つに個票を置く。
構成 400銘柄。ROE・営業利益・時価総額等の定量スコアに、独立取締役・開示等の定性要素を加えて毎年8月に選定。
特性値 「稼ぐ力」の選別を掲げた国産の質指数——選定基準に経営指標を置くことで、指数への編入自体を経営の目標に変える(指数が企業行動を変える再帰性の、日本での実験例)。日銀のETF買入対象にも含まれた。
見直し 年1回(毎年8月)。
構成 国内株6指数・外国株3指数(2020年代半ば時点)——総合型(MSCI ESGセレクト・リーダーズ、FTSE Blossom Japan系)・テーマ型(女性活躍・ジェンダー多様性)・炭素効率型(S&P/JPXカーボン・エフィシェント系)。
特性値 連動運用額は合計で十数兆円規模と公表。公募・方法論評価・利益相反管理を経て採用される点が制度的な特徴で、「設計で選ぶ指数」の調達に統治の手続を通した先行例(本文Ⅳ節)。
見直し 各指数の規約による(概ね年次・半期)。
債券指数の標準は発行量(時価総額)加重である。思想は株式と同じ「市場を写す」だが、債券では写す対象が発行残高であるため、公知の逆説を生む——最も多く借りた者を、最も多く持つ。発行体が借入を増やすほど指数内の重みが増し、指数投資家は自動的にその貸し手になる。また指数のデュレーション(金利感応度)は発行体の借り方で受動的に変わる——低金利期に各国政府が長期化した債務は、指数を通じて投資家の金利リスクを静かに引き上げた。これらは設計の欠陥ではなく「写す」思想の帰結だが、株式と違って写される側(借り手)の行動が物差しを動かす度合いが強いことは、債券指数を読む際の第一の注意である。
主要系列は三つの系譜に整理できる。Bloomberg Global Aggregateは投資適格の総合指数(国債・政府関連・社債・証券化)で、その名の変遷(リーマン・ブラザーズ→バークレイズ→ブルームバーグ)自体が業界史である。FTSE WGBIは国債のみの系譜(旧ソロモン・旧シティ)で、日本の公的年金の外国債券ベンチマークとして長い歴史を持つ。国内ではNOMURA-BPIが国内債の事実上の標準である。この三者は「総合か国債のみか」「通貨・格付の下限」で中身が大きく違い、同じ「グローバル債券」の名でも社債を含むか否かで信用リスクの量が変わる。さらに格付基準は強制売却の機械として働く——投資適格の下限を割った銘柄(フォールン・エンジェル)は機械的に指数から除外され、その前後の価格圧力は最も確立した指数現象の一つである。新興国債券では、ハード通貨建て(EMBI系)と現地通貨建て(GBI-EM系)が「新興国債券」という同じ名の下の別世界をなす——為替リスクの所在が正反対だからである。
短期金利指標は、本要覧で唯一「配分の物差し」でなく「契約の物差し」だが、収載する理由がある——指標の統治が最も進んだ領域だからである。LIBORはパネル銀行の申告値に依存する構造の脆弱性が不正操作で露呈し(2012年発覚)、廃止に至った。後継のTONA(日本・無担保コール翌日物)やSOFR(米・レポ)は実取引ベース——申告でなく市場の実取引データから算出され、公的機関が算出・統治に関与する。申告から実取引へ、私的算出から公的統治へ——この移行は、指標というものの信頼が設計で作られることの、最も大規模な実証である。株式・債券指数の統治を考える際の参照点として、対比の価値がある。
| 指数(算出者) | 思想の一行 | 加重・型 | カバレッジ | 連動・参照資産の目安 |
|---|---|---|---|---|
| Bloomberg Global Aggregate | 投資適格の全体を写す総合指数。名前の変遷が業界史 | 発行量加重・規則型 | 国債〜証券化・投資適格 | 参照2兆ドル規模と報じられた△ |
| FTSE WGBI | 国債だけの世界。日本の年金の外債の物差しの古典 | 発行量加重・規則型 | 主要国の国債(市場規模基準) | 日本の公的年金の外債基本ベンチマーク(数十兆円規模の国内連動○) |
| NOMURA-BPI(野村) | 国内債の事実上の標準 | 発行量加重・規則型 | 国内公募債(投資適格) | 国内債パッシブ・参照で数十兆円規模○ |
| ICE BofA 社債・HY系 | クレジット市場の物差しの標準系列 | 発行量加重・規則型 | 社債・ハイイールド各種 | クレジット運用の参照の標準△ |
| JPM EMBI/GBI-EM | ハード通貨と現地通貨——同じ名の下の別世界 | 発行量加重(分散上限あり)・規則型 | 新興国のドル建て/現地通貨建て | 参照数千億ドル規模△ |
| TONA(日銀公表) | 申告から実取引へ——指標統治改革の国内実装 | 実取引の加重平均 | 無担保コール翌日物 | —(金利契約の参照。デリバティブ・貸出の基準) |
| SOFR(NY連銀公表) | 同・米国実装。公的機関が算出者 | 実取引の加重平均 | 国債レポ | —(同上) |
構成 約30,000銘柄・28通貨前後。部門: 国債 約55%/政府関連 約1割/社債 約2割/証券化 約1割強。
通貨上位 米ドル 約45%/ユーロ 約2割強/円 約1割/人民元 約8%(2019年からの段階編入——国別構成が政策判断の産物であることの債券側の実例)。
格付ウェイト AA格以上 約55%/A格 約25%/BBB格 約2割弱(概数)。すべて投資適格。
特性値 デュレーション 約6.5年。利回りと金利感応度は各国政府の借り方で受動的に変わる(本文Ⅴ節の逆説)。
見直し 毎月末リバランス(新発の編入・償還/残存基準による除外・格付変更を月次で反映)。
構成 20数か国の国債のみ。市場規模・格付・市場アクセスの参入基準。
構成国(2020年代半ば時点・23市場前後) 北米=米国・カナダ・メキシコ/欧州=英国・ドイツ・フランス・イタリア・スペイン・オランダ・ベルギー・オーストリア・アイルランド・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・ノルウェー・ポーランド/中東=イスラエル/アジア太平洋=日本・中国・シンガポール・マレーシア・オーストラリア・ニュージーランド。構成国は毎版更新の対象であり、正は算出者の公表(直近の編入・除外は必ず原典で確認のこと)。
通貨上位 米ドル 約4割/ユーロ 約3割/円 約15%/英ポンド 約5%。
格付ウェイト 投資適格国債のみ(AAA〜BBB帯)。日本のA格が大きな比重を占める——「国債=最高格付」ではないことの教材。
特性値 デュレーション 約7年。日本の年金実務では「除く日本」版が外債の物差しの古典。中国国債の編入(2021年〜)が近年最大の構成変更。出入りの歴史も長い——ギリシャ(2010年)・ポルトガル(2012年)・南アフリカ(2020年)の除外など、格付・規模基準による退出の記録は、参入基準が単なる紙の上の規約でないことの実演である(図3)。
見直し 毎月末リバランス。国の編入・除外は基準判定と予告を経て段階実施——中国国債は36か月かけて編入された。
構成 国内公募固定利付債・約15,000銘柄。国債 約7割/地方債・政保債・金融債・事業債・円建外債等 約3割。
特性値 デュレーション 約9年——国債発行の長期化を映して伸長してきた。国内債パッシブ・国内債アクティブ評価の事実上の標準であり、「国内債券」という資産クラスの実務上の定義そのもの。
見直し 毎月末リバランス(国内新発の編入・残存基準による除外)。
構成 投資適格(IG)社債指数はBBB格が約半分——IGの物差しの中身は「ぎりぎり投資適格」に傾いている。
ハイイールド版 BB格 約5割/B格 約3.5割/CCC格以下 約1割(概数)。
特性値 IGのデュレーション 約6.5〜7年。格付境界(BBB/BB)はフォールン・エンジェルの通り道であり、指数の格付規則が強制売買を生む地点(本文Ⅴ節)。
見直し 毎月末——格付境界の出入り(フォールン・エンジェル)も月末に機械的に実行される。本文Ⅴ節の強制売買には、日付がある。
構成 約70か国のドル建てソブリン・準ソブリン債。国別ウェイトに分散化調整(大国の比重を機械的に圧縮)。
格付ウェイト 投資適格とハイイールドがほぼ半々——「新興国債券(ドル建て)」は実質的にクレジット資産である。
特性値 デュレーション 約6.5年。為替リスクは米ドル(投資家側にとって現地通貨リスクなし)。
見直し 毎月末リバランス。
構成 約20か国の現地通貨建て国債。国別上限10%——中国・インドネシア・メキシコ等の複数国が上限に張り付き、実質的な等金額圏を形成。
特性値 リターンの過半が現地金利でなく為替で説明される時期が長い——EMBI(ドル建て)との対は、「同じ新興国債券の名の下の別世界」(本文Ⅴ節)の定量的実例。
見直し 毎月末リバランス。
構成 無担保コール翌日物の実取引の加重平均。日本銀行が毎営業日公表。
特性値 円金利スワップ・変動利付債・ローンの参照金利としてLIBOR円を承継。申告ベースから実取引ベースへ・私的算出から公的算出へ、という指標統治改革の国内実装(本文Ⅴ節)。
構成 米国債レポの実取引の加重平均。NY連銀が公表。基礎取引は1日約2兆ドル規模——世界で最も厚い実取引基盤を持つ金利指標。
特性値 ドルLIBORの後継。担保付き翌日物ゆえ信用スプレッド成分を含まない——LIBORとの概念差(銀行の信用リスクの有無)が、移行時の実務論点の中心だった。
コモディティ指数を読む際の第一の事実は、それが現物の指数ではないことである。保管できない・保管費用の嵩む現物の代わりに、指数は先物を持ち、期限が来るたびに次の限月へ乗り換える(ロール)。ゆえに指数のリターンは現物価格の変動だけでなく、ロール損益——先物カーブの形状で符号が決まる隠れた構成要素——を含む。この部品を知らずにコモディティ指数を「インフレヘッジ」として採用すると、現物価格が動かない期間にも指数が沈み続ける経験をすることになる(数値例2・図4)。
二大指数の対比は、本要覧で最も鮮明な思想の違いを示す。S&P GSCIは世界生産量で加重する——経済的重要性を写す思想であり、帰結としてエネルギーの比重が過半を占める時期が長い。Bloomberg Commodity(BCOM)は流動性と生産量を併用した上で、商品・セクターに上限を課す——投資家の分散を優先する設計の思想である。同じ「コモディティ」の名の下に、エネルギー集中の指数と分散制約の指数というリターン特性の異なる二つの商品がある。どちらが正しいかではない——原油ショックのヘッジが目的ならGSCI的な集中は機能であり、分散投資が目的なら欠陥である。目的が思想を選ぶのであって、逆ではない。
ある商品の現物価格が1年間まったく動かないとする。先物カーブはコンタンゴ(期先高)で、期近100に対し翌限月が101(1%高)で安定しているとする。指数は毎月、期近を売って翌限月に乗り換える。
数値は模式値である(実際のカーブ形状は商品・時期で大きく変わる)。含意は一つ——コモディティ指数の採用判断は、現物価格の見通しではなく、ロールを含む指数の設計の理解を前提とする。
| 指数(算出者) | 思想の一行 | 加重・型 | 構成 | 連動・参照資産の目安 |
|---|---|---|---|---|
| S&P GSCI | 世界生産量で加重——経済の重要性を写す。帰結はエネルギー集中 | 生産量加重・規則型・期近ロール | 24商品前後 | 連動数百億ドル規模△ |
| Bloomberg Commodity(BCOM) | 投資家の分散を優先——商品・セクターに上限を課す設計 | 流動性+生産量・上限制約・規則型 | 20数商品 | 連動・参照で千億ドル前後△ |
構成 24商品前後・世界生産量加重・上限なし。
セクターウェイト エネルギー 約55〜60%(WTI・ブレント原油だけで約4割)/農産物 約15%/金属 約2割弱(概数)。
特性値 期近を毎月定型日程でロール。エネルギー集中ゆえ原油の先物カーブがほぼ指数の運命を決める——「経済的重要性を写す」思想の帰結(本文Ⅵ節)。
見直し ウェイトは年1回改定(毎年1月に新ウェイト適用)。ロールは毎月の定型日程(第5〜第9営業日)。
構成 20数商品。加重は流動性3分の2+生産量3分の1、単一商品15%・セクター33%の上限を年次リバランスで課す。
セクターウェイト エネルギー 約3割/貴金属 約2割(金単独で約15%)/農産物 約3割(概数)。
特性値 GSCIとの対は本要覧で最も鮮明な思想の対照実験——同じ商品先物の世界から、集中の指数と分散の指数が同時に存在する。
見直し ウェイトは年1回改定(1月適用)。ロールは毎月の定型日程。
オルタナティブの「指数」は、株式・債券の指数と同じ名で呼ぶべきでないものを多く含む。区別の軸は投資可能性である——複製できる指数と、現象を集計した統計は別物であり、後者をベンチマークに使うことは、買えない成績と自分を比べることを意味する。
ヘッジファンド指数(HFR等)は任意報告の集計であり、オルタナ編第1章が正典として論じた三つのバイアス——自己申告(悪い成績は報告をやめられる)・生存(消えた者が履歴から落ちる)・遡及(新規報告者の過去の好成績が算入される)——を構造として持つ。報告ベースの指数と、投資可能に設計された指数(HFRX等)の成績差は恒常的であり、その差自体がバイアスの大きさの目安という読み方が実務的である。プライベート資産の指数(Cambridge Associates系・Burgiss系〔現MSCI Private Capital〕・Preqin等)は、LP・GPから収集したキャッシュフローと評価額の母集団統計であり、四半期頻度・報告ラグ・鑑定評価の平滑化(オルタナ編第1章のデスムージングの主題)をすべて引き継ぐ。ここでの「指数対比」は上場資産のそれと意味が違う——母集団の分布(四分位)との比較が本来の使い方であり、単一の指数値との差を「アルファ」と呼ぶことは計測論として成立しない(PME等の公開市場対照——オルタナ編第2章——がこの問題への正答である)。
不動産は、同じ資産に二つの時計が付いている稀な教材である。非上場の鑑定ベース指数(NCREIF NPI等)は滑らかで遅く、上場REIT指数(FTSE EPRA Nareit等)は即時で荒い。両者の長期リターンは近く、短期の振る舞いは全く違う——差は資産でなく計測の設計から来る。オルタナ編が全巻を通じて論じた「報告リターンと経済的実体の乖離」を、一対の指数がそのまま実演している。
| 指数(算出者) | 思想の一行 | 算出基盤 | 頻度 | 連動・参照資産の目安 |
|---|---|---|---|---|
| HFRI(HFR) | 任意報告の集計——三つのバイアスを構造として持つ統計 | 運用者の自己申告 | 月次 | —(投資不能。投資可能版HFRXとの差がバイアスの目安) |
| MSCI Private Capital(旧Burgiss)/Cambridge系 | 私募の母集団統計。四分位比較が本来の使い方 | LP・GP報告のCF・評価額 | 四半期(ラグあり) | —(統計。参照のみ) |
| Preqin系 | 同上。データベース系譜の統計 | 開示請求・調査 | 四半期 | —(同上) |
| NCREIF NPI(米) | 鑑定の遅い時計——平滑化の教科書的実例 | 鑑定評価 | 四半期 | —(統計) |
| FTSE EPRA Nareit | 市場の速い時計——同じ資産の即時価格版 | 上場REIT市場価格 | 日次 | 連動数千億ドル規模△ |
構成 約1,500ファンドの等金額平均・月次・任意報告。戦略別(株式ヘッジ・イベント・マクロ・相対価値)のサブ指数群を持つ。
特性値 投資不能。報告版(HFRI)と投資可能版(HFRX)の恒常的な成績差が、三つのバイアス(自己申告・生存・遡及)の大きさの実務的な目安になる(本文Ⅶ節)。等金額ゆえ小規模ファンドの影響が大きく、「業界平均」は資産加重の実感と乖離する。
見直し 月次算出。過去分の遡及改定があり、確報まで数か月動き続ける——バイアスの機構と同根の性質。
構成 1万数千本規模のファンドのキャッシュフロー・評価額データベース(LP実績報告ベース)。資産クラス別・ヴィンテージ別の四半期統計。
特性値 四半期・報告ラグ・鑑定評価の平滑化を引き継ぐ。単一指数値でなくヴィンテージ×四分位の分布で読むのが本来の使い方であり、上場指数との厳密な比較にはPME等の公開市場対照を用いる(オルタナ編第2章)。
構成 米国の機関保有実物不動産・約1万物件・時価総額数千億〜1兆ドル規模。鑑定評価ベース・四半期。
特性値 平滑化の教科書的実例——報告ボラティリティは経済実体を大きく下回り、デスムージング(オルタナ編第1章)の主要な適用対象。レバレッジなしのプロパティ・レベルで算出される点も、ファンド実績との比較時の注意点。
見直し 四半期。
構成 先進国の上場不動産・REIT 約350銘柄。国別上位: 米国 約6割/日本 約1割。
特性値 日次・市場価格——NPIと同じ資産の「速い時計」。短期は株式市場と、長期は不動産市況と連動する二面性が、上場・非上場の配分議論(オルタナ編)の定量的な出発点になる。
見直し 四半期レビュー。
最後に、日本の現在地を一つ。本節が述べた「指数の名の限界」は、欧米では統計の限界だが、日本ではまだ統計の不在である。金融庁が国内の主要LP投資家27機関に聴取した調査(2026年)では、21機関が日本のPEファンド業界全体のベンチマークデータの充実を投資環境整備の筆頭に挙げ、既存の業界ベンチマークについて、対象ファンド数の少なさ・公正価値評価未実施ファンドの混入・項目内容の乏しさ・開示頻度の低さ・基準日から公表までの遅さ、という五点の不備を指摘した。物差しの限界を知った上で使う(欧米)と、使える物差しがまだ無い(日本)は、別の段階である。
ここまで指数そのものを論じてきたが、実務で指数は多くの場合、ETFという器を通して配達される。器は中立の容器ではない——固有の構造と、固有の限界を持つ。構造は二層である。二次市場(取引所での持分の売買)と、一次市場(指定参加者〔AP〕が現物バスケットと引き換えに持分を設定・交換する仕組み)。市場価格が基準価額(NAV)から乖離すれば、APが設定・交換で鞘を取り、乖離は閉じる——ETFの連動性は指数への機械的な忠誠ではなく、裁定という約束の機構で維持されている。利点は公平に記す——即時執行・低コスト・現物拠出による税効率(米国)・そして常時付く市場価格そのものの情報価値。ETFがパッシブ運用の民主化を駆動した功績は、本節の限界論の前提である。
第一の構造論点は、連動性の限界——とりわけ債券ETFのNAV乖離である。2020年3月、投資適格社債ETFが基準価額から数%のディスカウントで取引され、「ETFが壊れた」と報じられた。だが学術・実務の有力な読みは逆である——壊れていたのはNAVの側だった。原債券の取引が止まり、評価値が実勢に追いつかず、ETF価格だけがリアルタイムの合意を映し続けた。つまりこれは、本書の読者には見覚えのある現象である——平滑化問題の、上場市場版。鑑定の遅い時計と市場の速い時計(Ⅶ節の不動産の対、オルタナ編のデスムージング)が、同じ資産の周りで数日間乖離した。教訓は「乖離=ETFの誤り」ではなく、「乖離=二つの時計の差。どちらを信じるかを問え」である。
第二の構造論点が、著者の実務でより重い——流動性の逆転である。ハイイールド債・バンクローン等では、ETF持分の売買回転率(残高に対する売買の頻度)が原資産のそれを大きく上回り、個別ファンドの売買頻度は保有債券の実売買を桁で上回る。「原資産より流動的な器」は魔法ではない。流動性変換——短期で出入りできる請求権を、換金の遅い資産の上に築く、銀行と同じ営み——である。平時は二次市場の中で買い手と売り手が相殺し、原資産に触れずに流動性が「増える」。だがこの上乗せ分は、一方向の売りが出た瞬間に一次市場(AP経由の原資産売却)へ回送され、結局は中身の流動性が天井になる(表7)。器の流動性は、中身の流動性の約束ではない。2020年3月はこの命題の実地試験であり、結末は象徴的だった——中央銀行(Fed)が社債ETFを直接購入して市場を修復した。ETFが市場インフラであることを、当局が行動で認定した瞬間である。
| 層 | 平時 | ストレス時 |
|---|---|---|
| 二次市場(取引所) | 買い手と売り手が層内で相殺し、原資産に触れないまま売買が成立。スプレッドは薄く、見かけの流動性は原資産を上回る | 売りが一方向化すると層内で吸収できない。スプレッドが拡大し、価格がNAVから乖離し始める |
| 一次市場(設定・交換) | APの裁定が乖離を小さく抑える。裁定費用=原資産の執行費用が乖離の幅を決める | 原資産の執行が困難化し裁定費用が急騰。乖離が数%まで拡大しうる——最後の天井は、常に原資産の流動性である |
| 含意 | 「ETFの流動性」と呼ばれるものは二層の合成であり、ストレス時には下層(中身)の流動性へ収斂する。平時の出来高を、危機時に頼れる流動性と読み違えないこと | |
アセットオーナーへの含意は三つ。(一)ETFの平時の出来高を、流動性バッファの根拠にしない——ストレス時に頼れるのは原資産の流動性であり、これはオルタナ編第3章の流動性設計と同じ規律の適用である。(二)NAV乖離を誤差と即断しない——どちらの時計が正しいかを問う。乖離はしばしば、器の欠陥ではなく評価の遅れの露呈である。(三)ETFの採用は二段の選択である——指数の選択(五軸)に、器の選択(AP・スプレッド実績・ストレス時の乖離履歴・貸株の取扱い)が重なる。器の審査は、五軸に付け足すべき実務上の第六の観点である。なお、ETFの規模と市場への影響については学術・当局の分析が蓄積している(ETF保有と原資産のボラティリティの関係、流動性変換への監督上の関心等)——本節は器の構造の理解までを射程とし、システミックリスクの各論は扱わない。
ここまでの記述を、一枚にまとめる(図6)。横軸は規則か、裁量か——編入・構成の決定が機械的基準か、委員会の判断か。縦軸は写すか、選ぶか——市場の実勢を写そうとするのか、設計者の基準で選ぶのか。
地図の読み方を三つ。第一に、左上(規則で写す)から右下(裁量で選ぶ)への移動は、説明の負担の増加である。規則で写す指数の採用理由は一行で足りるが、設計で選ぶ指数の採用は、その設計思想への同意を意味する——ESG指数の採用機関が方法論の評価と公表を行うのは、この負担の正しい引き受け方である。第二に、同じ象限の中の違いこそ、実務の落とし穴である。MSCIとFTSEは地図上ほぼ同位置だが、韓国の分類が違う。GSCIとBCOMは同じコモディティで対角に近い。名前でなく座標で選ぶこと。第三に、この地図は動く——TOPIX改革は左上方向への移動であり、指数の規約変更は地図上の移動として読める。
実務への接続を五点で結ぶ。(一)指数が違えば、別の戦略である——資産クラス名でなく、五軸と思想で選ぶ。(二)ベンチマークの変更は、配分の変更と同格の統治事項である——承認権限と記録の水準を揃える(論考別紙〔参照点の統治〕)。(三)採用指数の規約の重大変更を、把握の対象にする——物差しは静かに動く。(四)連動資産の桁は、混雑の目安である——巨大指数の定期見直しは巨大な同時売買であり、複製費用は連動規模と無関係ではない。(五)買えない指数を物差しにしない——投資可能性の軸を最初に確かめる(Ⅶ節)。カスタム化を含むベンチマーク設計の統治は論考別紙〔参照点の統治〕へ、ファクターの言語としての含意は論考別紙〔ファクターという言語〕へ、それぞれ接続する。最後に一節を足す——世界の物差しが読者の機関の机に届くとき、最後の変換が待っている。版種・通貨・除外範囲である。
ここまで指数を「読む」(五軸)・「選ぶ」(思想の地図)・「受け取る」(ETFという器)の順に論じてきた。閉じる前に、最後の一枚を置く。指数は、日本のアセットオーナーの机に届くまでに、三つの変換を通る——版種(配当と税をどう数えるか)、通貨(円に直すか、為替を消すか)、除外範囲(世界から何を切り出すか)。この三つは指数名のどこにも書かれていないことが多く、それでいてリターンの水準そのものを変える。「TOPIX」と書いただけでは、ベンチマークはまだ指定されていない——「TOPIX(配当込み)」と書いて、はじめて指定である。
第一の変換がリターン版種である。同じ指数に、配当を数えないプライスリターン版、配当を全額再投資するグロス配当込み版、源泉徴収後の配当を再投資するネット配当込み版の三つがある。報道で目にする日経平均・TOPIX・S&P 500の値は原則としてプライス版であり、配当は入っていない。例外が原則を照らす——ドイツのDAXは配当込み版を看板に掲げる数少ない主要指数であり、「ドイツ株は米国株より強い」型の比較記事の一定数は、配当込みと配当抜きを並べる誤りである。長期では配当の複利が支配的になるため、版の指定を欠いた比較は比較として成立しない(数値例3・図7)。そしてネット版には、もう一段の前提が埋まっている——算出者の標準的なネット版は、租税条約の恩恵を受けない非居住者に適用される高めの源泉税率を機械的に引く。年金基金のように実効税率がそれより軽い機関がネット版を物差しにすると、パッシブ運用が恒常的にベンチマークを上回る——それは腕前ではなく、税差である。日本の公的年金が外国株式のベンチマークに自らの配当課税要因を考慮した版を用いるのは、この錯覚の正しい消し方である。論考別紙〔報酬という憲法〕はグロスとネットの対を「腕前の主張と受益者の現実」と呼んだ——指数の側でも同じ問いが立つ。どのネットか。誰の税率のネットか。この問いは物差しの側だけの話ではない——金融庁のモニタリング(2026年)は、米国籍ETFを組み入れる低コストのインデックスファンド群で、ETF分配金への米国源泉税(10%)がベンチマーク乖離の約4〜5割を占め、しかもこの費用が目論見書の説明にも総経費率にも現れない、という分析例を公表した。税は、版種の選択にも、器(第Ⅷ節)の選択にも、同じ顔で埋まっている。
ある株式指数の価格が30年間まったく動かないとする。配当利回りは年2%で一定、非居住者の源泉税率は30%(模式値)とする。
数値は模式値である。含意は二つ——「配当込みか」「どの税率のネットか」は指数名の脚注ではなく、リターンの水準を決める指定である。そして自機関の実効税率が指数の前提税率より軽ければ、その差は毎年、パッシブの「超過収益」に化けて現れる——検証の前に、税差を物差しの側で消しておくこと(本文)。
第二の変換が通貨である。外貨建て指数を円の帳簿に載せる道は二つ——円換算版(為替変動をリターンに含める)と、ヘッジ付き版(先渡取引を定期的に組み直して為替変動を打ち消す設計)。どちらを選ぶかは為替リスクを資産クラスの一部と見るかどうかの配分判断であり(ヘッジ比率の設計は伝統編第18章)、物差しはその判断に従属する。実務の注意は三つ。ヘッジ付き指数の多くは月次で組み直す設計であり、月中に増減した部分はヘッジされていない。ヘッジの費用(おおむね二通貨の短期金利差)は指数リターンの内側に組み込まれており、金利差が開いた時期のヘッジ付き外債指数の低迷は、運用の失敗でなく設計の帰結である。そして第三に——ヘッジ付き指数がヘッジしているのは指数の為替であって、あなたのポートフォリオの為替ではない。自機関のヘッジ実務(頻度・比率・執行)が指数の規約とずれれば、そのずれはトラッキングエラーの顔をして現れる。Ⅷ節の決め句と同じ型である——器がそうであったように、版もまた、約束の範囲を確かめて使うものである。
第三の変換が「除く日本」である。日本の伝統的な資産構成は、国内債券・国内株式・外国債券・外国株式の四資産を別建てにする。国内資産を独立の資産クラスとして持つ以上、外の物差しに世界全体の指数を使うと日本が二重に数えられる——ゆえに外国株式・外国債券のベンチマークは「除く日本」版が既定形になる(Ⅲ節・Ⅴ節の各カード)。見落とされがちな一点を明示したい。「除く日本」を設計したのは算出者ではなく、採用者である。カーブアウトは第一軸(ユニバース)の行使であり、国内資産の別建て——世界時価総額の数%にすぎない自国市場を、それよりはるかに厚く持つという判断——が、物差しの形に翻訳されたものである。この構図の延長に複合(政策)ベンチマークがある。四本の物差しを政策ウェイトで合成した数字が機関全体の参照点になるとき、参照点の実体はもはや個々の指数ではなく、ウェイトとリバランス規則を含む合成の規約である。その規約の統治——誰がウェイトを承認し、変更を記録するか——は、論考別紙〔参照点の統治〕の主題そのものである。
| 指定 | 何が変わるか | 内規に書く一行 |
|---|---|---|
| ①除外範囲 | ユニバースそのもの。「除く日本」等のカーブアウトは採用者の編集であり、小型株を含む系列か否かでもカバレッジが変わる(第一軸) | 指数の正式名称を、除外版・規模範囲(小型込みか)まで記す |
| ②リターン版種 | 配当を数えるか、税をどの率で引くか。プライス/グロス/ネットで長期の水準が大きく開く(数値例3) | 「配当込み・税引後」まで明記し、前提税率と自機関の実効税率の差の帰属を決めておく |
| ③通貨とヘッジ | 円換算(為替込み)かヘッジ付き(為替を消す設計)かでリスクの正体が変わる。ヘッジ付きは組み直し頻度まで規約の一部 | 円換算/ヘッジ付きの別と、ヘッジ付きなら算出規約(組み直し頻度)を記す |
| ④公表系列と換算規約 | 同じ指数でも、速報値か確報値か、円換算に用いる為替レートの時点がずれれば数字がずれる——検証の突合が合わない原因の常連 | 用いる公表系列と、換算レートの出所・時点を固定する |
本要覧の結びとして、一行に約す。指数の名前は、名字にすぎない。除外範囲・版種・通貨・換算規約まで書いて、ベンチマークははじめて固有名詞になる。五つの軸で読み、思想の地図で選び、器の限界を確かめ、四つの指定で受け取る——ここまでやって、機関は「自分の物差しを持っている」と言える。物差しは選ばれるだけでは足りない。翻訳されて届く。翻訳の規約を自分で書いた者だけが、自分の数字を自分で説明できる——本書が全巻を通じて求めてきた検証可能性は、ベンチマークにおいては、この四行の指定から始まる。