本書の訳語方針は音写主義である。定訳のない語に無理な漢語をあてるより、カタカナ音写に初出の平易な説明を添える方が、原語文献との往復に耐える。ただし、訳し方それ自体が理解を左右する語が三つある。第一に参照ポートフォリオ(reference portfolio)——「参考」と訳した瞬間に、理事会との契約という含意が消える。第二にコミットメント(commitment)——「約束」ではなく、法的拘束力のある出資枠である。第三に説明責任(accountability)——「開示」でも「報告」でもなく、問われ、答え、帰結を引き受けるまでの全体である。訳語の選択は翻訳の趣味ではない。概念の輪郭の選択である。
| 訳語(正典) | 英語 | 一行の定義 | 主な定義箇所 |
|---|---|---|---|
| 平滑化 | smoothing | 鑑定・裁量評価が真の値動きをなだらかに引き延ばす現象。正の自己相関という指紋を残す | オルタナ編・第1章 |
| デスムージング | desmoothing / unsmoothing | 平滑化を剥がし、真のボラティリティと相関を復元する補正 | オルタナ編・第1章 |
| 自己相関 | autocorrelation | 今期のリターンが前期と似る度合い(ρ₁)。平滑化検知の第一指標 | オルタナ編・第1章 |
| 内部収益率(IRR) | internal rate of return | キャッシュフローの現在価値をゼロにする割引率。時間加重でない点に病理が宿る | オルタナ編・基礎編 |
| 公開市場対比(PME) | public market equivalent | 同じ資金を指数に置いた場合と比べる評価法(KS-PME) | オルタナ編・第2章 |
| ダイレクト・アルファ | direct alpha | PMEを年率の超過収益(%)として表現し直した指標 | オルタナ編・第2章 |
| 投下資本倍率(TVPI/DPI/RVPI) | multiples (TVPI/DPI/RVPI) | 投下資本に対する総価値/分配済み/未実現の倍率。「DPI is the new IRR」 | オルタナ編・基礎編 |
| 基準価額(NAV) | net asset value | ファンドの純資産価値。私募では「事実ではなく意見」 | オルタナ編・第1〜2章 |
| ヴィンテージ | vintage (year) | ファンドの設定年。成績比較の基本単位 | オルタナ編・基礎編 |
| Jカーブ | J-curve | 私募ファンド初期の含み損局面。成績の時間形状 | オルタナ編・基礎編 |
| 情報比(IR) | information ratio | 超過収益÷トラッキングエラー。スキルの密度 | 伝統編・基礎編 |
| トラッキングエラー(TE) | tracking error | ベンチマークからの乖離の標準偏差 | 伝統編・基礎編 |
| アクティブシェア | active share | 保有がベンチマークと異なる割合。クローゼット・インデクシング検知 | 伝統編・第5章 |
| 移転係数 | transfer coefficient | 確信度の高い見解をポートフォリオへ書き写せる割合。制約下の基本法則 IR=IC×√BR×TC の第三因子 | 論考別紙〔参照点の統治〕 |
| 実効銘柄数 | effective number of holdings | HHIの逆数。名目の銘柄数でなく実質の分散度 | 伝統編・第15章 |
| パーシスタンス | persistence | 成績の持続性。「バイアウトで消失、VCで残存」 | オルタナ編・第2章 |
| 逐次検定 | sequential test | データが届くたびに「継続か判定か」を決める検定。境界を事前に固定すれば誤り率が守られ、平均所要年数は固定標本の約半分になる(SPRT) | 論考別紙〔数式の読み方〕Ⅻ |
| 偽発見率(FDR) | false discovery rate | 鳴った警報の中の空振りの割合。多数の委託先を同時に検定する監督の誤り管理の物差し(BH手順) | 論考別紙〔数式の読み方〕Ⅻ |
| 訳語(正典) | 英語 | 一行の定義 | 主な定義箇所 |
|---|---|---|---|
| GP(無限責任組合員) | general partner | ファンドを運用し、支配権という商品を売る側 | オルタナ編・基礎編 |
| LP(有限責任組合員) | limited partner | 出資し、委ね、監督する側——本書の読者 | オルタナ編・基礎編 |
| LPA(組合契約) | limited partnership agreement | ファンドの憲法。監督の武器の在処 | オルタナ編・第6章 |
| LP諮問委員会(LPAC) | LP advisory committee | 利益相反等を審査するLP代表の委員会。捕獲に注意 | オルタナ編・第6章 |
| コミットメント | commitment | 出資約束額。「約束」とは訳さない——法的拘束のある枠 | オルタナ編・第3章 |
| キャピタルコール | capital call | コミットメントの払込請求。資金繰りの震源 | オルタナ編・第3章 |
| ドローダウン・モデル | drawdown / capital-call model | 単一コミットメントのコール・分配の時間形状を描くキャッシュフローの機構(Takahashi–Alexanderが標準形)。ペーシングの内部部品。高値からの下落幅を指す市場用語の「ドローダウン」とは別語 | オルタナ編・第3章/実用別紙〔ペーシングと脱平滑化の校正手引〕Ⅲ |
| ペーシング(本書の使い分け) | pacing (model) | ドローダウン・モデルをヴィンテージ横断で束ね、目標配分の到達・維持に要る年次コミット額を解く計画の層。実務では機構と計画を一体に「ペーシング・モデル」と呼ぶことが多く本書も従うが、検収の単位は別——機構は予実対比・計画は配分到達とストレス下の流動性 | オルタナ編・第3章/実用別紙〔ペーシングと脱平滑化の校正手引〕Ⅲ |
| キーパーソン条項 | key person clause | 中核人材の離脱時にLPが得る権利 | オルタナ編・第4・6章 |
| 表明保証 | representations and warranties | 相手が事実を表明し、虚偽なら法的責任を負う仕組み。定期取得で監督の足場になる | 伝統編第5章・オルタナ編第6章 |
| ネガティブ・アシュアランス | negative assurance | 「遵守している。ただし以下の例外を除く」方式の遵守証明——例外の列こそ警報 | 伝統編第5章・オルタナ編第6章 |
| サイドレター | side letter | 個別LPとGPの追加合意。情報アクセスの購入手段 | オルタナ編・第6章 |
| ハードルレート | hurdle rate | 成功報酬が発生する最低収益率 | オルタナ編・第4章 |
| キャッチアップレート | catch-up rate | ハードル充足後にGPが自分の取り分へ追いつく区間で、分配1円あたりGPが受け取る比率。100%が最頻・キャリー料率まで下がるとハード・ハードルと同値 | 論考別紙〔報酬という憲法〕Ⅰ・Ⅲ |
| ウォーターフォール | distribution waterfall | 分配の順序規定。ディール毎(米国型・アメリカン)か全体清算(欧州型・ヨーロピアン)か、その中間の修正型(ハイブリッド=案件ごとに払うが実現済み原価・未実現損失・費用累計を先取りさせる)か | オルタナ編・第4章/論考別紙〔報酬という憲法〕Ⅲ |
| クローバック | clawback | 払い過ぎた成功報酬の返還条項。清算時のほか、期中に仮想清算で検査する中間クローバックがある | オルタナ編・第4章/論考別紙〔報酬という憲法〕Ⅲ |
| エスクロ | escrow | 成功報酬の一部を第三者に預託し、クローバックの原資を残高として確保する仕組み。返還の約束に残高を付ける装置 | 論考別紙〔報酬という憲法〕Ⅰ・Ⅲ |
| キャリー(成功報酬) | carried interest | GPの成功報酬持分。「繰越利息」とは訳さない | オルタナ編・第4章 |
| グロス/ネット・リターン | gross / net return | 報酬・費用を引く前(ファンドが稼いだ)/引いた後(LPに届く)のリターン。オルタナでは楔が三層・年率数%ポイントに及ぶ——グロスは腕前の主張、ネットは受益者の現実 | 論考別紙〔報酬という憲法〕Ⅲ・オルタナ編・第2章 |
| サブスクリプション・ライン | subscription line | コミットメントを担保とするつなぎ融資。IRRを押し上げる | オルタナ編・第3章 |
| 継続ファンド | continuation fund | GPが自ファンドの資産を新ファンドへ移す取引。同一代理の相反 | オルタナ編・第5〜6章 |
| セカンダリー | secondaries | 既存持分・GP主導の流通市場。NAVの外部検証にもなる | オルタナ編・第17章 |
| 共同投資(コインベスト) | co-investment | ファンド外での並行出資。逆選択に注意 | オルタナ編・第6章 |
| ファンド・オブ・ファンズ(FoF) | fund of funds | ファンドに投資するファンド。二重報酬とルックスルーが論点 | オルタナ編・第6章 |
| ゲート | gate | 解約制限条項。「設計通りに作動する」ことまで含めて設計 | オルタナ編・第17〜18章 |
| サイドポケット | side pocket | 流動性の低い資産の分別勘定 | オルタナ編・第16章 |
| セミリキッド | semi-liquid | 定期解約枠を持つ私募商品。遅行NAVと解約の緊張の最前線 | オルタナ編・第17章 |
| ODD(運営デューデリジェンス) | operational due diligence | 運用以外——管理・評価・分別——の検証。拒否権を持たせる | オルタナ編・第4章 |
| ルックスルー | look-through | ファンドを透過して原資産・原ファクターで見ること | オルタナ編・第5章 |
| 訳語(正典) | 英語 | 一行の定義 | 主な定義箇所 |
|---|---|---|---|
| 基本ポートフォリオ | policy (asset mix) portfolio | 数年固定の政策配分。日本の配分統治の現在地 | 伝統編・第12章 |
| 参照ポートフォリオ | reference portfolio | 理事会が受け入れるリスク総量を単純な指数で表した物差し。「参考」ではなく契約 | 伝統編・第9章 |
| ミスフィット・リスク | misfit risk | 政策ベンチマークとマンデート・ベンチマークの構造差。運用者に転嫁せず発注者が所有すべきリスク | 論考別紙〔参照点の統治〕 |
| バムズ問題 | bums problem | 発行量加重の債券指数が「最も多く借りた発行体」を最も多く持たせる構造(Siegelの命名) | 伝統編・第16章末補論 |
| 資本市場前提(CMA) | capital market assumptions | 期待リターン・リスク・相関の前提。前提の複数ソース化が規律 | 伝統編・第21章 |
| リスク寄与度 | risk contribution | 各資産が全体リスクに占める割合。資金の言葉からリスクの言葉へ | 伝統編・第8章 |
| ファクター | (risk) factor | リターンを説明する共通要因。配分統治の語彙 | 伝統編・第1章 |
| ベンチマーク | benchmark | 評価の物差し。「与えられるものではなく、選ぶもの」 | 伝統編・第4章 |
| リバランス | rebalancing | 配分を規則で戻すこと。止めたくなる日のための規則の代表 | 伝統編・第13章 |
| TPA(トータルポートフォリオアプローチ) | total portfolio approach | 全資産を一つのリスク言語で束ねる運営方式。到達点ではなく勾配 | 伝統編・第10章 |
| LDI(負債駆動投資) | liability-driven investment | 負債に合わせた運用。英2022年危機の主役 | 伝統編・第11章 |
| デュレーション | duration | 金利感応度。年限ではなくリスクの言葉 | 伝統編・基礎編 |
| DTS | duration times spread | スプレッド・デュレーション×スプレッド水準。クレジットの物差し | 伝統編・第3章 |
| 分母効果 | denominator effect | 上場資産の下落で私募比率が受動的に上昇する現象 | オルタナ編・第3章 |
| KRI(主要リスク指標) | key risk indicator | 劣化の予兆を測る早期警戒指標 | オルタナ編・第5章 |
| ウォッチリスト | watchlist | 警戒対象の階層管理。誤検知率を先に設計する | オルタナ編・第5章 |
| ストレステスト | stress test | シナリオ下の耐性検証。複合流動性が本丸 | オルタナ編・第3章 |
| ポストモーテム(失敗検証) | post-mortem | 失敗の事後検証。犯人捜しと分離して制度化する | 両編・統合本章 |
| OCIO | outsourced CIO | 運用執行の包括委任。「投資家であること」は委任できない | 伝統編・第7章 |
| 委託/委任(本書の使い分け) | outsourcing (mandate) / delegation | 委託=作業・運用を委ねる契約行為(相手が特定され、契約に書け、解約できる)。委任=判断・権限を委ねる関係とその統治(契約がなくても成立し、責任は移らない)。委託は委任の連鎖に結節を一つ作る行為であり、委任はその結節が生む統治問題の名前である | 統合序章・伝統編第7章 |
| 椅子/席/座(本書の使い分け) | chair / seat / position | 椅子=視座——座る者の見える景色を決め、移ることができる(「椅子は景色を選ぶ」)。席=役割——卓に用意された責務の割当てで、空けておくことも、着くこともできる(「席は、空けてある」)。座=制度上の地位——誰が座るか以前に、設計がその位置を存在させているかどうかの問題であり、作られるか、無いかである。尺度は認識論→責務論→存在論の順に上がる | 統合序章Ⅸ・統合終章Ⅸ・論考別紙〔委ねる者はどこにいたか〕 |
| リスクファクター/プレミアムファクター(本書の使い分け) | risk factor / premium factor | リスクファクター=リターンの共変動を説明する軸(分散の言語・検定は説明力・数十〜数百本)。プレミアムファクター=保有への無条件の期待報酬が非ゼロの軸(平均の言語・検定は源泉・複数標本・コスト後・十本前後)。プレミアムはリスクの部分集合であり、逆は成り立たない——分散は観測の頻度で締まり、平均は期間でしか締まらない | 論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅳ |
| 監督キャパシティ(認知資源) | supervisory capacity | 組織が検証できる複雑性の総量。配分の制約条件 | 統合終章Ⅱ |
| 期待ショートフォール(ES) | expected shortfall | 最悪α%に落ちたときの損失の平均。VaRと違い劣加法性を満たし、分散投資を罰しない(整合的リスク尺度) | 論考別紙〔数式の読み方〕ⅩⅢ |
| 縮小推定 | shrinkage estimation | 推定値を単純な錨へ意図的に引き戻す推定法。制約付き配分は縮小推定の暗黙の実装である(ジャガナサン–マー) | 論考別紙〔数式の読み方〕ⅩⅣ |
| 訳語(正典) | 英語 | 一行の定義 | 主な定義箇所 |
|---|---|---|---|
| アセットオーナー | asset owner | 受益者のために資産全体を預かり、帰結に責任を負う組織 | 統合序章Ⅰ |
| 受託者責任 | fiduciary duty | 受益者の利益に忠実である義務。委任の連鎖の背骨 | 統合序章 |
| スチュワードシップ | stewardship | 株主としての対話と議決権行使の責任 | 伝統編・第20章 |
| エンゲージメント | engagement | 投資先との目的を持った対話 | 伝統編・第20章 |
| 議決権行使助言会社 | proxy advisor | 行使判断の外注先。委任の空洞化の論点 | 伝統編・第20章 |
| パススルー・ボーティング | pass-through voting | 最終投資家に行使選択を返す仕組み | 伝統編・第20章 |
| 開示 | disclosure | 情報を外に出すこと。義務であり、紙で完結する | 統合本章・序 |
| 説明責任 | accountability | 情報・討議・帰結の三要素(Bovens)。開示より広い | 統合本章・第1章 |
| 正統性 | legitimacy | 委ねられ続けるための社会的信認。実利・道徳・認知の三層 | 統合本章・第1章 |
| 退出・発言・忠誠 | exit, voice, loyalty | Hirschmanの三分法。退出なき世界の規律は後二者のみ | 統合本章・第1章 |
| 市場規律 | market discipline | 逃げられる資金提供者による規律。バーゼル第三の柱 | 統合本章・第1章 |
| 裏切り回避 | betrayal aversion | 同じ損失でも、人の裏切りが招くものへの追加の忌避(Bohnet–Zeckhauser)。罰は額でなく背反に比例する | 統合本章・第1章 |
| 正統性の三源泉 | input / output / throughput legitimacy | 参加・結果・過程という正統性の汲み場(Scharpf–Schmidt)。AOは過程(スループット)に全体重が乗る | 統合本章・第1章 |
| 非多数派機関 | non-majoritarian institution | 選挙で選ばれない者が公的権能を行使する機関。委任の正統性は条件付き(Majone・Tucker) | 統合本章・第1章 |
| SWF(ソブリン・ウェルス・ファンド) | sovereign wealth fund | 国家の投資基金。正統性の二正面(国内・国際) | 統合本章/資料別紙・機関要覧 |
| エンダウメント | endowment | 大学・財団の永続基金。Yaleモデルの母体 | オルタナ編・第7章 |
最後の表は、本書が作った言葉である。他書には(まだ)存在しない。これらの語が本書の外で使われはじめたとき、本書の仕事は言葉の側から成就する——用語は、引用されて初めて用語になる。
| 訳語(正典) | 英語 | 一行の定義 | 主な定義箇所 |
|---|---|---|---|
| 認知資源 | cognitive resources | 監督キャパシティの本書の呼称——検証に投じ得る注意・時間・人材の総量。リスクの予算より先に来る予算 | 統合終章Ⅱ |
| 検証可能性の生産 | the production of verifiability | アセットオーナーの仕事の核心についての本書の定式 | 統合終章Ⅰ |
| 検証可能 | verifiable | 受け手が、送り手の誠実さを仮定せずに、独立の手段で真偽を確かめられること。判定は六条件——遡行・方法・再計算・照合・全数・固定 | 統合終章Ⅰ(六条件) |
| 総合(シンセシス) | synthesis | 各分野の確立した結果を、一つの問いの下に接合する知的作業。各分野の内側へ発見を加える分析と対をなす。本書の学際性はこの営みの帰結 | 論考別紙〔書架はなぜ空だったのか〕Ⅰ |
| 探索費用 | search cost | 自分の分野の外の知見を見つけ、読み解き、使える形にする費用。総合の供給を決める中心変数——LLMが崩落させたのは、判断ではなくこの費用である | 論考別紙〔書架はなぜ空だったのか〕Ⅲ・Ⅳ |
| 正統性資本 | legitimacy capital | 平時に蓄積し危機に取り崩される信認の残高。徒歩で来て、馬で去る | 統合本章・第1章 |
| 第六の聴衆 | the sixth audience | まだ生まれていない受益者。記録だけが届く、最も公平な読者 | 統合本章・第2章 |
| 最終翻訳者 | the final translator | 専門の語を公共の語へ移す、説明の連鎖の結節点としてのAO | 統合本章・第2章 |
| 代理の問い | the proxy question | 尋ねない(尋ねられない)者の代わりに、翻訳者が問いを立てること | 論考別紙〔翻訳者はどこにいるか〕Ⅰ・Ⅺ |
| 理解の脱平滑化 | de-smoothing of understanding | なめらかな頷きの下の実態を、問いで突いて確かめる検査——AI時代の翻訳者の中核業務 | 論考別紙〔翻訳者はどこにいるか〕Ⅹ |
| 二層報告 | two-layer reporting | 単年度・四半期の隣に累積・長期を常置する様式 | 統合本章・第6章 |
| 説明可能性バイアス | explainability bias | 説明しやすい決定が、説明すべき決定を駆逐する傾き(Lerner–Tetlockより) | 統合本章・第4章 |
| 四つの時計 | the four clocks | スキル・資産・担当者・政治の時間の非同期。統治は翻訳装置 | 統合終章Ⅲ |
| 事件にならない失敗 | failure that never becomes an event | 静かに富を削る凡庸。本書の最終標的 | 統合終章Ⅳ |
| 平滑さへの需要 | the demand for smoothness | 変動が小さく見える資産への政治的需要 | オルタナ編・第1章・第Ⅳ部 |
| 高コストのベータ | expensive beta | 指数並みの中身に高い報酬を払う状態 | オルタナ編・第7章 |
| 代用市場規律 | substitute market discipline | 退出なき世界で自ら発明する規律の代用品(参照PF公開・格付等) | 統合本章・第3章 |
| 移植可能性 | transplantability | 海外の解が日本の制度環境で機能する条件。本書の編纂の軸 | 両編・第Ⅳ部 |
| 参照点の統治 | governance of the reference point | 系統リスクの帰属を決める参照点(ベンチマーク・FTP・負債割引率は同じものへの写像)を、所有者と審査をもって管理すること | 論考別紙〔参照点の統治〕 |
| 三つの生産機能 | three production functions | ベータ(政策リスク)は理事会が、アルファとアクセスはフロントが、検証可能性は第二線が生産するという、アセットオーナーの分業の定式 | 伝統編・第14章補論 |
| 時間の符号 | the sign of time | アセットオーナーにとっての危機の定義——時間が味方から敵に回る事象。時価の毀損は可逆で危機でなく、強制実現・信認毀損・静かな複利の劣化が危機である | 統合終章・Ⅷ |
| 統治能力 | governance capability | 検証の無限後退を、自らの責任において打ち切る能力。積の定式=問いの在庫×検収の作法×裁可の一貫性×責任の帯域——AIが拡張するのは帯域であって核ではない | 論考別紙〔裁可者の育て方〕Ⅲ |
| 裁可(裁可者) | sign-off / sanctioner | 「これで十分とする。誤っていれば私が答える」——検証の連鎖を責任で終端させる行為と、その名宛人。生成は複製できるが、裁可は複製できない | 論考別紙〔裁可者の育て方〕Ⅲ |
| 未決の台帳 | ledger of open questions | 署名された決定に結合した「何がわからないままか」の明記——名指しの未決・観測可能なトリガー・改訂経路・日付と署名。決定の品質が沈黙する決定の日に、その場で検査できる唯一の計器 | 論考別紙〔裁可者の育て方〕Ⅹ |
| 打ち切りの署名 | termination sign-off | 何を確認し、何を確認せず、どこで「十分」としたかを、判断者の名前つきで結果が出る前に書く様式。過程責任はこの事前記録があって初めて機能する | 論考別紙〔裁可者の育て方〕Ⅴ |
| 追認率 | rubber-stamp rate | 委任先・AI・コンサルの推奨をそのまま通した率。100%の継続は裁可の死の推定——統治の実体を測る第一の計器 | 論考別紙〔裁可者の育て方〕Ⅴ |
| 判断台帳 | judgment ledger | 全裁可の事前記録と、時を置いた過程の事後検討(M&M型・罰なし)の対。意地悪な環境にフィードバックを人工製造する装置であり、組織の判例集・選抜の証拠生成装置を兼ねる | 論考別紙〔裁可者の育て方〕Ⅷ |
| 裁可の梯子 | ladder of entrustment | 小さな実物の裁可を段階的に渡し、副署から単署へ移す育成装置。登らせることが育成であり、どこで止まるかを見ることが選抜である | 論考別紙〔裁可者の育て方〕Ⅷ |
| 統治の外観 | ostensible governance | 実体(裁可と責任)なしに生産される統治の見かけ——報告書・議事録・ダッシュボード。費用のかからない信号でできており、AIはその限界費用をゼロに近づけた | 論考別紙〔裁可者の育て方〕Ⅳ |
| 強制点 | forced-action point | 応じなければ契約か制度が執行を強制する期日と水準(証拠金・担保・約定利回り・繰入)。市場リスクはここを通過するとき、流動性リスク(今日の現金)と支払能力リスク(自己資本)へ変換される。機関を殺すのは動機ではなく強制点である | 統合終章Ⅷ |
| 孤独と孤立(の分界) | solitude vs. isolation | 終端に立つことは責務であり(孤独=この職業の定義・消えない)、終端に見捨てられることは制度の失敗である(孤立=消せる)。組織の覚悟——罰を手放す・不利な記録を残す・席に権限を渡す——が消すのは後者だけで、署名する者は孤独のまま、孤立を免れる | 統合終章Ⅸ・論考別紙〔裁可者の育て方〕Ⅹ |
| 非対称の四層 | four layers of asymmetry | 解釈・データ・インセンティブ・検証。AIが劇的に縮めるのは①解釈だけで、④検証はむしろ拡大しうる、という分解 | 論考別紙〔非対称の年代記〕Ⅰ |
| 知識の非対称 | knowledge asymmetry | 同じ情報を前にしたときの解釈能力の差。情報の非対称(持ち高の差)と区別する本書の用法 | 論考別紙〔非対称の年代記〕Ⅰ |
| 委任の再帰 | recursive delegation | 個別の運用でなく「誰に委ねるかを決める機能」ごと委ねること(OCIO・総幹事・包括委任)。原理は一行——監督を委任した者に、監督は届かない。ゆえに参照点・検証・出口の権利・最終判断の四点は委ねない | 論考別紙〔非対称の年代記〕Ⅶ・伝統資産編第7章 |
| 沈殿(圧縮の) | sedimentation | 圧縮の成果が制度に固定され、後戻りしなくなること。技術だけの勝ちは回収され、制度に固定された勝ちだけが沈殿する | 論考別紙〔非対称の年代記〕Ⅲ・Ⅸ |
| 歴史の文法 | the grammar of compression | 六つの圧縮の波から帰納した六箇条。圧縮の主体・レントの移転先・沈殿の条件を与える | 論考別紙〔非対称の年代記〕Ⅲ |
| 入口の契約 | the contract at the entrance | 検証可能な形式でのデータ開示と再計算可能な報酬開示を、交渉力が最大の署名前に握ること。出口(可搬性・移管)を加えた三点が最小の核 | 論考別紙〔非対称の年代記〕Ⅵ |
| イタチごっこ仮説と沈殿仮説 | cat-and-mouse vs. sedimentation | 軍拡は循環し、制度は沈殿する。ゲームは循環するが、スコアは制度化の有無で分岐する、という読み | 論考別紙〔非対称の年代記〕Ⅸ |
| 三層の照合 | three-layer collation | 他分野からの輸入学の作法——製法・制度・係留の三層で「何が輸入済みで何が空白か」を先に確かめてから輸入する | 論考別紙〔壊れ方の科学〕Ⅰ |
| 公正文化 | just culture | 罰と報告を両立させる制度設計。過失を三分類し、正直な報告を免責し、無謀だけを罰する——「罰する者に、告白は集まらない」への安全科学の回答。罰の理論(統合本章第1章)の対 | 論考別紙〔壊れ方の科学〕Ⅵ・統合本章第1章 |
| ニアミス台帳 | near-miss ledger | 損失に至らなかった異常・未遂・利益の出た規律違反を物語形式で集める内向きの報告制度。ASRSの六部品の小規模機関への移植 | 論考別紙〔壊れ方の科学〕Ⅴ |
| 利益の出た規律違反 | profitable violation | 損失の出た違反は制度がなくても発覚する。利益の出た違反は報告されず、賞賛すらされ、静かに基準を書き換える——報告制度が捕捉すべき最重要の盲点 | 論考別紙〔壊れ方の科学〕Ⅴ |
| 漂流の速度計(漂流KRI) | drift KRI | 例外承認・規律からの乖離・基準改定の方向の三系列で「自分の劣化」を測る指標群。漂流は止められないが、測ることはできる | 論考別紙〔壊れ方の科学〕Ⅳ・Ⅸ |
| 降格記録 | demotion record | 台帳からかつての第一級が検証で落ちた記録。削除せず残す——収載基準が本物なら落ちるものが出るはずであり、台帳の健全性は収載の数ではなく降格の記録で測る | 論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ |
| 包装紙の解体表 | unwrapping table | 資産クラス(行)×マクロ軸(列)の写像マトリクス。プレミアムの台帳(表の行=何が報酬を持つか)と分業し、リスクの言語で重複を露出させる——行を読めば包装が解け、列を読めば集中が見える | 論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅺ |
| 禁輸品(輸入学の) | prohibited imports | 輸入すると害をなす道具の税関目録。信頼性計算・ハインリッヒ比率の神話・ゼロ目標・文化サーベイの儀式化の四点 | 論考別紙〔壊れ方の科学〕Ⅶ |
| テールの所有権 | ownership of the tail | クレジットの危機時損失を誰が引き受けると文書で決めたか。所有者が事前に決まっていない損失だけが、事故の日に犯人を必要とする | 論考別紙〔テールは誰のものか〕Ⅴ |
| 宣言との一致 | conformity to declaration | 運用者評価の対象を、成績から、申告したエンジンと保有の整合へ移す物差し。危機の年の劣後は確認、申告と違う優位は警報 | 論考別紙〔テールは誰のものか〕Ⅴ・Ⅶ |
| イールドハントの均衡 | yield-hunt equilibrium | ベンチマーク相対評価・薄いスプレッド・テール標本の不在・ヘッジ手段の欠如の下で、恒常的なスプレッドの取り持ちが唯一の合理的応答として合成される状態。破れるのはマンデートを書く側だけ | 論考別紙〔テールは誰のものか〕Ⅳ |
| スプレッドの尾 | tail in spreads | テールの正しい定義——デフォルトではなく、時価と流動性の急変。円建て市場ではデフォルト統計が制度的に真のテールを過小表示するため、この定義が要る | 論考別紙〔テールは誰のものか〕Ⅳ |
| 検収可能性の供給 | supply of verifiability | 売り手が、検収されうる形で自分を差し出すこと(エンジン申告・分解開示・危機行動の事前文書)。検収の完成は買い手に残る——利他ではなく自己防衛 | 論考別紙〔テールは誰のものか〕Ⅶ |
| 見えざる貸借 | the unseen lending and borrowing | 三部作の系列名——「持つ」の内側に走る貸借(証拠金・ロール・担保・貸株)の網。配分表の裏の貸借対照表 | 三部作各扉(系列) |
| 強制されない権利 | the right not to be forced | 長期投資家が手放してはならない唯一の部品——無レバの現物保有には経路依存性がない | 持たずに持つⅠ |
| 市場の時計 | the market's clock | 日次の値洗いと証拠金が保有者を接続する時間——現物の保有者は自分の時計で動く | 持たずに持つⅠ・Ⅶ |
| 中立点(為替ヘッジ) | the neutral point | 「何もしない」がヘッジ率何%を指すかの宣言——ヘッジは参照点なしには定義できない | 借りずに借りるⅧ |
| 保管の委任 | the delegation of custody | 委任の最下層——成績で毎期検収される運用の委任と違い、事故の日にしか観測されない | 貸さずに貸すⅠ・Ⅸ |
| 付随収益(委任されていない委任) | ancillary revenue as undelegated delegation | 配分の言語に行を持たず保管の言語の中で決まる収益——検収できなければ、捨てるか検収様式を作って買い戻すかの二択 | 貸さずに貸すⅠ・Ⅶ |