はじめて本書を開く読者に、最初に伝えるべきことは一つである。これは一冊の本ではない。書架である。中心に幹がある——本編二冊と、それを束ねる統合の三章、そして別冊の問答。幹は読書の動線であり、最初の頁から最後の頁まで、一つの論として読み通せるように書いてある。幹の周りに弁がある——幹で一段落を与えられただけの論点が、それぞれ一篇の骨格を得て立っている考える紙と、要覧・台帳・索引として引かれるために生まれた引く紙である。第三の系統——内規にそのまま写せる標準の雛形、使う紙——は体系の内側で育っているが、公開の棚にはまだ並べていない(Ⅴ)。
この形は、成り行きではなく設計である。本編二冊は、あるところで増補を止めた。新しい主題を幹に足し続ければ、幹はやがて、誰にも読み通せない長さになる——だから幹は凍り、新しい主題は弁を通って別紙になる。読者への約束は単純である。幹は動かない。棚だけが育つ。一度幹を読んだ読者は、次に来たとき、棚に増えた背表紙だけを確かめればよい。
二十八篇を、六つの棚で一覧にする。棚の名は、用途で読めるように付けてある——まずここからの「最初の一列」、委任の統治を扱う「委ねるという関係」、計測と道具の「測る技術、測らせる力」、「失敗という教材」、本書自身の方法を明かす「書架の作り方」、そして引くための正典「机の上の三点」である。
| 篇 | 種別 | 一行の紹介 |
|---|---|---|
| 最初の一列 — 方法論の本体(幹) | ||
| 統合序章 | 幹 | 入口——この職業の責務は、思うより遥かに大きい。幹の詳しい歩き方(対応章マップ・四つの道)は序章Ⅷに |
| オルタナティブ編 | 幹・本編 | 見えないリスクを、見えるようにする——私募資産の計測と監督 |
| 伝統資産編 | 幹・本編 | 見えているリスクを、統治する——配分の言語を資金からリスクへ |
| 統合本章 | 幹 | 開示から対話へ——五つの聴衆と正統性という資本 |
| 統合終章 | 幹 | 出口——認知資源の予算・四つの時計・90日からの工程表・理事会の十問 |
| 実務家Q&A | 別冊 | 三十の問い——率直な疑問への率直な答え・本編への索引を兼ねる |
| 委ねるという関係 — 委任の統治 | ||
| 行使できない株主たち | 論考 | 議決権と委任の空洞化——上場と私募の対 |
| 報酬という憲法 | 論考 | 再計算できない報酬は、監督されていない報酬である |
| 翻訳者はどこにいるか | 論考 | 専門知と統治のあいだの、名前のない職能 |
| 裁可者の育て方 | 論考 | AI時代の統治能力論——連鎖を終わらせる者は一人の自然人である |
| 非対称の年代記 | 論考 | 知識格差の圧縮史とAIの波——非対称は消えず、住所を変える |
| 測る技術、測らせる力 — 計測と道具 | ||
| 参照点の統治 | 論考 | ベンチマーク・FTP・負債割引率は同じ問いの三つの写像 |
| 数式の読み方 | 論考 | 剥がす式・訳す式・決める式——事後の裁量を事前の規律に変える数理 |
| ファクターという言語 | 論考 | TPAの認識論的基礎——台帳は真理ではなく規約である |
| 主要指数要覧 | 資料 | 指数は中立な物差しではない——五つの軸と思想の地図 |
| 持たずに持つ | 論考 | デリバティブの統治——手放してはならない唯一の部品は、強制されない権利 |
| 借りずに借りる | 論考 | 通貨の統治——ヘッジの水準に正解はなく、あるのは中立点の統治だけ |
| 貸さずに貸す | 論考 | 保管の統治——付随収益は、委任されていない委任である |
| テールは誰のものか | 論考 | クレジット評価と検証の非対称——備えの便益は来なかった危機の中にしか載らない |
| 失敗という教材 | ||
| 失敗事例総覧 | 資料 | 二十八の事例を年表・六類型・五つの対で引く——授業料の明細書 |
| 壊れ方の科学 | 論考 | 安全工学からの輸入学——罰の下で真実を語らせる制度の作り方 |
| 書架の作り方 — 本書自身の方法 | ||
| 本書の作り方 | 資料 | 大規模言語モデルと制作基盤の図説——工程・検査・配信の完全開示 |
| 書架はなぜ空だったのか | 論考 | 総合の費用と検証の値段——この本が存在しなかった理由の理論 |
| 文献解題 | 資料 | 約二百点の文献に一行解題——「最初の十本」の読む順つき |
| 検証の記録 | 資料 | URLなき確認は確認と数えない——照合台帳と訂正の公開 |
| 机の上の三点 — 引くための正典 | ||
| 海外機関要覧 | 資料 | 十八機関の統治・運用・開示を統一様式で引く |
| 日英用語集 | 資料 | 訳語の正典と、本書の造語 |
| 総索引 | 資料 | 見出し語三百超から全篇への最短経路 |
どこから読むかは、内容ではなく、あなたの席が決める。四つの席を想定した。
委ねる側——経営層・理事の席。統合の文書だけを、上から下へ。序章、本章、終章、問答。数式は囲みの中に閉じてあり、追わなくても論は切れない。責務の大きさ、説明という仕事、注意という予算、そして理事会の十問——意思決定者が握るべき言語だけで、一冊分の読書が完結するように書いてある。細部が要る日は、いずれ来る。その日に、担当者と共に両編へ降りればよい。
検収する側——第二線の席。序章のあと、担当に近い編へ。その先の三篇は決まっている。物差しを決める仕事(参照点の統治)、再計算という武器(数式の読み方)、そして確かめ方の実物(検証の記録)。この三篇が、検収という仕事の道具箱の底板である。
運用の現場の席。担当資産の部から入り、道具の棚を机に寄せる——ファクターという言語、主要指数要覧、そして〔見えざる貸借〕の三部作。持つ・借りる・貸すという三つの動詞の内側を見てから現場に戻ると、同じ画面が、違って見えるはずである。
観察する側——政策と研究の席。本書を読む前に、本書がなぜ存在するのかを疑ってよい。その疑いに正面から答える三篇——書架はなぜ空だったのか、非対称の年代記、翻訳者はどこにいるか——から入るのが、最短の道である。主張の確かめは、検証の記録が引き受ける。
幹の内側の詳しい歩き方——両編の対応章の地図と、四つの道——は、統合序章Ⅷが正典である。本前書きは書架の全体を、序章は幹の内側を案内する。
本書は、検証可能性を主題に据えた書物である。ならば本書自身が、検証可能でなければならない。その約束の実装が、机の上の三点である。総索引は、三百を超える見出し語から全篇の議論箇所への最短経路。文献解題は、本書が借りたすべての権威の名簿と、その一行の値踏み。そして検証の記録は、本書の主張がいつ・どの一次資料で照合されたかの台帳であり、見つかった誤りと訂正の目録を含む。本書を疑う日は、まずここを引かれたい。疑えるように作ってある——それが、本書の設計である。
最後に、正直に記す。この書架には、公開していない棚がある。内規に写せる標準の雛形と、一部の論考は、整うまで、あるいはその性質のゆえに、公開の列に並んでいない。公開されたどの篇も、非収載の篇に寄りかからずに読めるように書いてある。
読者への約束は三つである。第一に、主要な主張は公開に先立って一次資料と照合する——記録は検証の記録に。第二に、誤りは隠さない——訂正は目録で公開する。第三に、各篇は自らの可謬性——どこで誤りうるか——を、自らの末尾に登録する。統合終章が言うとおり、この書架の目次は完成図ではなく、ある時代の視野の記録である。棚の空きを見つけた読者は、それを指させばよい。その指差しが、次の書き手の最初の仕事になる。