Working Reference · Institutional Investment Series
資料別紙 · 第1.1版

失敗事例総覧

資料別紙 事件から引く、本書のもう一つの背骨 — 年表・類型・対
性格 両編と統合本章に収めた失敗事例(FAILURE CASE)二十八件を、事件の側から引ける総覧に編み直した参照資料。本書は失敗から綴られた歴史であり、本紙はその歴史の年表である。各事例の本文は「何が起きたか・教訓・その後の変更」の三部構成で書かれている——総覧は要旨と所在のみを示す
類型の正典 六類型の定義と正典は、オルタナ編第10章(失敗の類型学・表2)および伝統編第11章にある。本紙の対応づけは編者による逆引きであり、境界事例は複数類型に跨がる
 第1.1版(統合本章第4章の対照表〔背反と罰・8事例〕への案内を追記——FAILURE CASE様式でないため採録対象外)· 2026年7月 ※第1.0版は初版・二十八事例
資料別紙
失敗事例総覧
二十八の事例を、年表と六類型と五つの対で引く。授業料の明細書の、索引である。

資料別紙 Ⅰ読み方 — 歴史から入るという正統

統合序章は、時間なき実務家に「失敗からの遡行」——事例集だけを先に横断し、問いを携えて理論の章へ遡る道——を勧めた。本紙はその道の地図である。事例はすべて本文に三部構成(何が起きたか・教訓・その後の変更)で収載されており、本紙は要旨・類型・所在のみを示す。成功は再現できない。だが失敗は、驚くほど忠実に反復する——年表を眺める効用は、その反復を自分の目で確かめられることにある。同じ類型が、資産と国と年代を替えて、何度も現れる。

資料別紙 Ⅱ年表 — 二十八の事例

表1 失敗事例の年表(類型の正典はオルタナ編第10章表2。対応づけは編者の逆引き)
年代事例国・領域類型一行の要旨本文
1994オレンジ郡米・地方公共団体Ⅰ 流動性「現金の運用」という名のレバレッジ債券運用が、金利急騰で郡を破産させた伝統編・第11章
2000年代〜オランダ年金とFTK蘭・職域年金制度設計時価と積立率の健全性規制が、下落時の株式売却を強制する順景気循環を生んだ伝統編・第11章
2008ノルウェーの公開検証諾・SWF(失敗の転化)−23%の損失を外部学者の公開解剖に付し、ファクター統治と検証文化が生まれた伝統編・第8章
2008–09Harvard 流動性危機米・エンダウメントⅠ 流動性最も洗練された基金が、キャピタルコールと資産売却の逆流で現金に追い詰められたオルタナ編・第7章
2008–09 / 2015CalPERS 二つの危機米・公的年金Ⅵ コストと情報証券貸付の隠れたリスクと、「支払った成功報酬を集計できません」の告白オルタナ編・第8章
2010年代Harvard 天然資源プラットフォーム米・エンダウメントⅤ 権限と複雑性農地・森林の内製直接投資が評価不全に陥り、撤退——監督できない複雑性オルタナ編・第7章
2012AIJ投資顧問事件日・厚生年金基金Ⅳ 検証の空白約2,000億円・約10年の虚偽報告。残高の直接確認という基本の欠落が招いた伝統編・第12章
2015GPIF「5兆円消失」日・公的年金様式(説明)設計内の−5.3兆円が、防御的開示の下で物語の執筆権ごと失われた統合本章・第4章
2015韓国NPS サムスン合併議決韓・公的年金Ⅳ/統治専門委を迂回した一票に政権の圧力が働き、長官実刑・弾劾の一角に至った統合本章・第4章
2017–19英CMA フィデューシャリー調査英・委任市場Ⅵ(委任版)委任の市場は放置すると競争しない——入札義務化と成績標準化が生まれた伝統編・第7章
2017–23英USS 割引率戦争英・大学年金Ⅱ 評価割引率という一つの数字を巡る六年の紛争が、ストを含む制度危機に発展した伝統編・第11章
2018Abraaj Group中東・PEⅣ 検証の空白一流LPの集合的DDが、資金流用の前に破られた——「他の一流投資家」は検証ではないオルタナ編・第4章
2019–20Woodford・H2O英仏・公募ファンドⅠ(構造)日次解約と非流動資産のミスマッチが、凍結と受益者間の不公平を生んだオルタナ編・第9章
2020年3月リバランス規律の試練世界Ⅲ 規律急落の底で規則を守った者と、直前に降りた者の成績が分かれた伝統編・第Ⅳ部
2020豪州スーパー早期引出し豪・DC年金Ⅱ 評価遅行NAVと解約自由の正面衝突——先に降りた者が得をする公平性の危機オルタナ編・第9章
2020CalPERS テールヘッジ解約米・公的年金Ⅲ 規律保険を、火事の直前に解約した——平時のコスト論理による規律の放棄オルタナ編・第8章
2020–21ペンシルベニア州教職員年金 PSERS米・公的年金Ⅱ 評価成績数値の小数点第2位の誤りが、拠出と統治の崩壊に連鎖したオルタナ編・第8章
2021Archegos米・ファミリーオフィスⅣ 検証の空白ファンドですらないものが、カウンターパーティ監督の空白を突いたオルタナ編・第15章
2021〜豪州YFYSテスト豪・DC年金様式(罰則結合)罰則付き開示がベンチマーク・ハギングを誘発——測り方が運用を作った伝統編・第11章
2021–22OTPPのFTX・CDPQのCelsius加・年金/公的運用Ⅳ 検証の空白微小ポジションでも説明コストはサイズに比例しない——ブランドはDDを代替しないオルタナ編・第9章
2022英LDI危機英・DB年金Ⅰ 流動性「リスク削減」戦略の担保連鎖が市場を壊し、中銀介入に至った一週間伝統編・第11章(詳解)/オルタナ編・第3章
202260/40の同時下落世界前提(相関)分散されたはずの株式と債券が、インフレ局面で同時に沈んだ伝統編・第Ⅰ部
2022–24私募市場の実地試験世界・私募全般Ⅱ 評価表面上の好調と水面下の劣化の併存——遅行評価の総合試験オルタナ編・第Ⅵ部
2022–24米大手非上場REITのゲート発動米・セミリキッドⅠ(設計)解約制限が設計通りに作動した、という問題——設計の告知と理解の乖離オルタナ編・第17章
2024–25農林中央金庫日・協同組織金融Ⅴ/様式外債集中の1.8兆円が「集中の統治」と守勢の説明を問うた伝統編・第12章
TOPIX日・指数Ⅵ(設計不在)「市場を買う」という名の、誰も設計しなかったポートフォリオ伝統編・第12章
マドフ事件米・私募Ⅳ 検証の空白(本文内事例)安定しすぎた成績と、外注できない残高確認の教訓——AIJの原型オルタナ編・第4章
クローゼット・インデクシング世界・運用委任Ⅵ コストと情報(本文内事例)指数並みの中身にアクティブ報酬を払う静かな敗北伝統編・第5章

資料別紙 Ⅲ類型の逆引き — 六つの型

個々の物語は多様だが、失敗の機序は少数の型に収斂する——本文の類型学の結論を、逆引きの形で再掲する。六類型のいずれにおいても、失敗の瞬間に欠けていたのは知識ではない。欠けていたのは、知識を平時に退屈な内規と検証手続へ変換しておく意思である。

表2 六類型と該当事例(定義の正典はオルタナ編第10章・伝統編第11章)
類型中核的な失敗本紙の該当事例教訓の一行
Ⅰ 流動性の誤算平時に無価値に見える流動性の影の価格を無視するHarvard 2008–09/英LDI 2022/オレンジ郡 1994/Woodford・H2O/REITゲート流動性は危機時にのみ価格がつく。連結で、担保も含めて測る
Ⅱ 評価と成績の虚飾遅行・裁量的な評価と検証なき成績数値が、富の移転と誤作動を生む豪州スーパー 2020/PSERS/USS/私募の実地試験 2022–24NAVは意見である。成績の算出と検証を分離する
Ⅲ 規律の放棄事前に定めた規則を、最悪のタイミングで平時の論理により止めるCalPERSテールヘッジ 2020/2020年3月のリバランス規則は止めたくなる日のためにある。変更の権限を市況から隔離する
Ⅳ 委任・検証の空白ブランド・規制・他の投資家を検証の代替とし、基本の確認を省くマドフ/AIJ/Abraaj/FTX・Celsius/Archegos/NPS 2015誰かが見ているだろう、は誰も見ていない。検証は外注できない
Ⅴ 権限と複雑性の不整合監督キャパシティを超える複雑性を無自覚に受け入れるHarvard天然資源/CalPERS証券貸付/農林中金の集中戦略は「儲かるか」でなく「うちに監督できるか」で絞る
Ⅵ コストと情報の敗北費用・条項・原資産の台帳を持たず、統治の前提を失うCalPERSキャリー 2015/クローゼット・インデクシング/TOPIX/CMA調査集計できないものは統治できない。情報アクセスは契約で購入する

資料別紙 Ⅳ対で読む — 五つの対

資産も国も異にする失敗が同じ機序で起きること——本書の中心的な主張のひとつ——は、対で読むときに最も鮮明になる。統合序章の三対に、本紙は二対を加える。

表3 対で読む失敗——同じ病の、別の顔
領域対で読むと見えること本文
マドフ ↔ AIJ米・私募 ↔ 日・年金安定しすぎた成績を、誰も直接確認しなかった——検証の空白は国も資産も選ばないオルタナ編・第4章 ↔ 伝統編・第12章
Harvard ↔ 英LDIエンダウメント ↔ DB年金洗練の頂点が、現金と担保という最も原始的な制約に倒れたオルタナ編・第7章 ↔ 伝統編・第11章
PSERS ↔ USS米 ↔ 英「一つの数字」(成績・割引率)が、統治全体を人質に取ったオルタナ編・第8章 ↔ 伝統編・第11章
GPIF 2015 ↔ NPS 2015日 ↔ 韓説明の失敗と、説明できない決定——同じ年の、正統性の二つの失い方統合本章・第4章
豪州スーパー 2020 ↔ 米REITゲートDC年金 ↔ セミリキッド遅行NAVと解約構造の衝突——先に降りた者が得をする設計の帰結オルタナ編・第9章 ↔ 第17章

最後に、本紙が載せられないものを記す。事件になった失敗だけが、この年表に載る。事件にならなかった失敗——市場に毎年わずかずつ負け続ける静かな凡庸——は、年表を持たない。本書が最終的に立ち向かうのはそちらであり、その理路は統合終章Ⅳにある。この総覧は、歴史に残った半分の索引にすぎない。