Working Reference · Institutional Investment Series
資料別紙 · 第2.33版
文献解題
資料別紙 本書が立つ肩 — 全文献への一行解題と、実務家の読む順
性格 両編・統合本章・別紙群の文献約百三十五点に、数行の解題——何をどう示したか・何を意味するか・本書のどこを支えるか——を付した書誌案内。各解題の末尾は本書の該当章への索引を兼ねる。完全な書誌(誌名・巻号)は各巻の文献リストが正典であり、誌面掲載分は原典照合済みである(制作リポジトリの係留監査台帳に記録)。本紙は著者・年の短縮形で引く
使い方 通読は勧めない。Ⅱの「最初の十本」から入り、必要になった主題の節を引く。大半の論文はSSRN・NBER・著者サイトのワーキングペーパー版で無償入手できる
版 第2.33版(〔報酬という憲法〕Ⅵ階層への追従——Begenau & Siriwardane 2024・Nanda, Wang & Zheng 2009・Halac, Kremer & Winter 2018 を節Ⅵに新規収載) ※第2.32版(〔報酬という憲法〕Ⅴ系譜への追従——Gompers 1994/2004・Robinson & Sensoy 2013・Fleischer 2008・Debevoise 2000・Mardini & Veith 2018 を節Ⅳに新規収載) ※第2.31版(〔報酬という憲法〕Ⅲ「回収の四つの摩擦」への追従——Kastiel & Nili 2023〔継続ファンドとクローバック〕を新規収載) ※第2.30版(〔報酬という憲法〕第1.11版〔修正型ウォーターフォール〕への追従——ILPA項に原則3.0とモデル契約両版の分配規範を追記・経済産業省モデル契約解説(2025)とHüther他(2020)を新規収載) ※第2.29版(節Ⅹに3項追補——Elkamhi & Lee 2026a〔CFA協会研究財団のTPA文献総覧・170点〕/Elkamhi & Lee 2025; 2026b〔JPM三部作・委任ベンチマーキング〕/CalPERS・Gilmore 2025〔TPA移行の理事会資料と年50〜60bpの公言〕。既存のCAIA/Thinking Ahead Institute項を2020・2024・2025の三文書へ精密化〔実測値を記載〕) ※第2.28版(〔裁可者の育て方〕Ⅹ小節新設の小節「未決の台帳」新設に伴い節ⅩⅥ末尾に6項——無自覚の定理・逆ベイズ主義・結果偏向・盲点研究・プレモータム・未決の明記の制度実在群〔知識の強さ/ICD 203/IAS 1 §125/CAM〕——を追補〔台帳CB-30〕) ※第2.27版(〔見えざる貸借〕三部作——持たずに持つ・借りずに借りる・貸さずに貸す——の公開昇格に伴い新節ⅩⅩ20点を新設〔企業金融のヘッジ理論・通貨理論の五答・CIPの破れと見えない債務・AIG事後検証・エンプティ・ボーティング・レポ・ラン三点セット・PFMI原則16ほか——全点原典照合済み・撤回論文一件の検出を含む〕) ※第2.26版(論考別紙第24号〔テールは誰のものか〕の公開昇格に伴い新節ⅩⅨ14点を新設〔確認の台帳CB33〕。目次にⅩⅦ・ⅩⅧの掲載漏れを同便補修——第12号・第14号昇格時のカスケード欠落の検出) ※第2.25版(敵対レビュー・バッチ1カスケード——Gompers & Lerner (1999)〔報酬硬直性・JFE書誌照合済み〕とMJ Hudson (2020)〔条件調査・CM170〕を追補し、Phalippou (2020) に〔報酬という憲法〕宛先を追加=同紙の「解題に統合」宣言の実体化。Chopra & Ziemba の倍率を約21倍へ統一〔CM90・数式の読み方と整合〕) ※第2.24版(ⅩⅦにGoldstein 2026を追補——LLM執筆のPPA誌掲載論文・④検証の非対称の一次実演〔論考別紙第12号Ⅴ・第16号Ⅻの文献・原典URL照合済み〕) ※第2.23版(ⅦにMerton 1980を追補——分散は頻度で締まり平均は期間でしか締まらない・「二つの言語」の統計的根拠〔論考別紙第7号Ⅳの文献・原典照合済み〕) ※第2.22版(Ⅶに主要ファクターの検収文献19項目——Mehra-Prescott・Jegadeesh-Titman・Asness-Moskowitz-Pedersen・Geczy-Samonov・Daniel-Moskowitz・Novy-Marx・QMJ・Haugen-Baker/Novy-Marx-Velikov・Koijen他Carry・Brunnermeier-Nagel-Pedersen・時系列モメンタム2点・Adrian-Crump-Moench・Asvanunt-Richardson・Amihud-Mendelson・Franzoni-Nowak-Phalippou・Banz・Shumway 2点・サイズ再検査2点・Pástor-Stambaugh-Taylor 2点〔論考別紙第7号Ⅹの文献・全点原典照合済み〕) ※第2.21版(新節ⅩⅧ・安全の科学13項目——Heinrich/Manuele・Perrow・Weick-Sutcliffe・Vaughan・Rasmussen・Snook/Hopkins・ASRS・Marx/Reason/Dekker・IOM・CAIB・WASH-1400/Leveson/Hollnagel・畑村・金融の錨2点〔論考別紙第14号の文献・CB14照合済み〕) ※第2.20版(新節ⅩⅦ・非対称の経済学と圧縮の歴史17項目——Akerlof・Hayek・Grossman-Stiglitz・Townsend・信用財二点・複雑性二点・NASDAQ/TRACE・Sharpe/French・仕組商品・覆面調査・Money Doctors・機関実証・Philippon/Greenwood-Scharfstein・AI実証五点・Agrawal他〔論考別紙第12号の文献・CB12照合済み〕) ※第2.19版(新節ⅩⅥ・統治能力と判断の科学15点——Goodhart/Strathern・Campbell/Muller・Kahneman-Klein・Hogarth・Klein・Tetlock・ten Cate・Orlander他・Power・Meyer-Rowan・Spence・Matthias・Elish・Clark-Urwin・Lakatos〔論考別紙第16号の文献・CB16書誌照合済み〕) ※第2.18版(ⅩにUrwin & Hayman(2026)=CFA協会TPA移行実務指針を追補——伝統編第13章L5注記の独立の裏書き・Clark–Urwinとの水脈合流) ※第2.17版(Ⅵに国内実務文献3点を追補——石田2024〔解約ゲームと運用しない運用〕・中村2026〔協働モニタリング〕・新井2026〔大学基金の構造診断と方法論需要〕。いずれも証券アナリストジャーナル・全文確認済み) ※第2.16版(新節ⅩⅤ・統計的決定とリスクの公理7点——Wald・Benjamini-Hochberg・Baks-Metrick-Wachter・Artzner他・Tasche・Ledoit-Wolf・Metrick-Yasuda〔数式の読み方・第Ⅱ部の文献〕) ※第2.15版(新節ⅩⅣ・知識生産の科学3点——Jones 2009〔知識の重荷〕・Wuchty-Jones-Uzzi 2007〔チーム化〕・Uzzi他2013〔型破りな組合せ〕〔論考別紙第11号の文献〕) ※第2.14版(新節ⅩⅢ・翻訳と境界の科学11点——Crawford-Sobel・Collins-Evans・Pielke・Allen・Kent・Huntington/Cohen・Feynman/Vaughan・Gigerenzer他〔論考別紙第10号の文献〕) ※第2.13版(オルタナ編第4章補論〔検証できる買い手〕に伴いCavagnaro et al.を追補) ※第2.12版(図1「五つの知的水脈と本書の位置」を新設——両編と統合本章の水脈を五本に束ねた合流図。各水脈の代表点のみの索引図で、新規主張なし) ※第2.11版(スポーツ実証2点——Romer 2006〔受託者のパント〕・ter Weel 2011〔監督解任〕) ※第2.10版(Ⅶにモデルリスク・推定誤差6点——Michaud・Chopra-Ziemba・Black-Litterman・Jagannathan-Ma/DeMiguel他・Hansen-Sargent・Danielsson他/SR 11-7〔論考別紙第7号Ⅸの文献〕) ※第2.9版(Ⅶにファクター理論8点——Ross・Merton・Chen-Roll-Ross・Carhart・Frazzini-Pedersen・Harvey-Liu-Zhu・Ang・制度史三点〔論考別紙第7号の文献〕) ※第2.8版(新節Ⅻ・規範文書の工学7点) ※第2.7版(Bebchuk & Hirst 2019を追補) ※第2.6版(Gawande 2007『Better』を追補) ※第2.5版(補論昇格への参照追従——章索引3件を論考別紙表記へ) ※第2.4版(Q&A改番への参照追従〔問二十三→問二十六〕) ※第2.3版(伝統編第6章補論〔参照点の統治〕の文献3点——Clarke–de Silva–Thorley・Brooks他・Siegel——を追補)· 2026年7月 ※第2.2版で図番連番化への参照追従 ※第2.1版で委任の民主的正統性5点を追補 ※第2.0版で全解題を三要素様式へ全面改稿 ※第1.4版で統合本章の5点を追補 ※第1.3版で委員会の行動科学3点を追補 ※第1.1版でRobinson & Sensoy 2016を追補
資料別紙
文献解題
本書が立つ約百二十点の肩に、数行ずつの解題を。何をどう示し、何を意味し、本書のどこを支えるか——読む順とともに。
資料別紙 Ⅰ 読み方 — 肩の上の見取り図
本書の新規性は接合にあり、素材は借り物である——序章の三つの柱が宣言した通りである。ならば読者には、借り物の原典への地図を渡すのが筋だろう。本紙は全文献に数行の解題を付す。解題の様式は一つ——何を、どう示したか。それが何を意味するか。そして本書のどこを支えるか 。末尾の巻・章は本書の該当箇所への索引を兼ねる。解題はいずれも各文献の周知の主要結果の範囲に留め、数値は本文で係留済みのもののみ再掲する。書誌の完全形(誌名・巻号)は各巻の文献リストが正典であり、誌面掲載分は原典と照合済みである。凡例として、節立ては両編の「四つの水脈」と統合本章の「第五の水脈」に従う。
まず、その肩の上の見取り図を一枚で示す(図1)。
計測の計量経済学
オルタナ編・第一の水脈
Geltner 1991
Asness他 2001
Kaplan & Schoar 2005
Harris他 2023
市場理論とアクティブ評価
伝統編・第一〜二の水脈
Sharpe 1964
Grinold 1989
Sharpe 1991
Berk & Green 2004
監督と組織の実証
両編共通・第三の水脈
Brinson他 1986
Goyal & Wahal 2008
Clark & Urwin 2008
Andonov他 2018
実務規範と自己文書化
両編共通・第四の水脈
Swensen 2000
Santiago原則 2008
AGS報告 2009
ILPA・機関検証文書
説明責任と正統性
統合本章・第五の水脈〔金融の外〕
Suchman 1995
Bovens 2007
Blinder他 2008
Tucker 2018
本書
測る
監督する
説明する
両編+統合層
五本は互いにほとんど引用し合わずに発展した。その合流点に、日本語の書物は無かった。
図1 五つの知的水脈と本書の位置(合流図)。両編の先行研究(各四つの水脈——第三・第四は両編共通)と統合本章の第五の水脈を五本に束ね、各水脈の代表点のみを刻んだ。全書誌と解題は本紙の各節にある(節立ては水脈に対応する)。五本は互いにほとんど引用し合わずに発展し、その合流点——委ねる側の椅子から五本を一つの方法論に接合する書物——が、日本語の空白だった(両編・先行研究の概観)。
資料別紙 Ⅱ 最初の十本 — 実務家の読む順
百十点は多い。時間なき実務家のために、十本を順に挙げる。この順で読めば、本書の骨格を原典の側から再構築できる。
1 Sharpe (1991) The Arithmetic of Active Management — 二頁で読める算術であり、この分野の熱力学第一法則。すべての議論の前にこれを読む——控除後のアクティブは平均で必ず負ける。
2 Kaplan & Schoar (2005) — PME=公開市場対照という規律を私募に持ち込んだ出発点。私募の成績を語る資格は、この一本から始まる。
3 Harris, Jenkinson & Kaplan (2014) — 「バイアウトは市場に勝ってきたか」の最も引用される答え(PMEで年率3%程度)。データベースの系統差の議論も実務に直結する。
4 Getmansky, Lo & Makarov (2004) — 平滑化の計量経済学の一般理論。自己相関を非流動性の代理として読む視座は、私募の計測すべての土台。
5 Takahashi & Alexander (2002) — Yale投資事務局が公開したペーシングモデル。実務から生まれ、実務で使える——資金繰り管理の原典。
6 Goyal & Wahal (2008) — 解雇されたマネージャーが雇われたマネージャーに勝つ——採用と解約の実務を根底から疑わせる大規模実証。
7 Brinson, Hood & Beebower (1986) + Ibbotson & Kaplan (2000) — 「配分がすべてを決める」の原典と、その正しい読解。誤読の歴史ごと学ぶことに価値がある。
8 Cremers & Petajisto (2009) — アクティブシェア——高い報酬で指数を買わされていないかを測る道具。委任者の自衛の第一歩。
9 Ang, Goetzmann & Schaefer (2009) — ノルウェー財務省委嘱の公開検証報告。ファクター統治の誕生の瞬間であり、機関の自己解剖の様式の原典。
10 Clark & Urwin (2008) — ベストプラクティス・ガバナンスの整理。技術ではなく組織から入りたい読者は、ここから逆順に読んでもよい。
十本の次の五本——Harris, Jenkinson, Kaplan & Stucke (2023)(パーシスタンスの現在地)、Stafford (2022)(複製論)、Ennis (2020)(劣後の実証)、Harvey, Liu & Zhu (2016)(ファクターの多重検定)、Hirschman (1970)(退出と発言)。ここまで読めば、本書への最も鋭い反論も自分で組み立てられる——それがこの読書案内の目的である。
資料別紙 Ⅲ 計測の計量経済学 — 平滑化とリスク
私募の数字はなぜ滑らかか。滑らかさの下から真のリスクを掘り出す道具の系譜。
Geltner (1991; 1993) — 鑑定士は新しい情報の一部しか当期の評価に反映せず、評価額は真の価格の指数平滑移動平均になる——この機構を V*=αV+(1−α)V* と定式化し、観測された系列から真の変動を逆算する道を開いた。不動産に限らず、私募計測の全系譜がこの一本の式の子孫である。オルタナ編第1章・補遺Aの起点。
Fisher, Geltner & Webb (1994) — 商業用不動産のリターン指数を、鑑定ベース・取引ベースなど構築法ごとに突き合わせ、平滑化補正の実装上の選択肢を整理した古典。補正は理論の問題である前に実装の問題だ、と最初に示した仕事。オルタナ編第15章の背景。
Getmansky, Lo & Makarov (2004) — ヘッジファンドのリターンに残る系列相関を、平滑化と非流動性の帰結としてMA(q)過程で一般化し、報告値から真のボラティリティとベータを復元する推定法を与えた。系列相関そのものを非流動性の代理として監視するという読み替えは、本書のKRI設計の理論的土台でもある。オルタナ編第1章・第16章。
Lo (2002) — シャープレシオを標本統計量として扱い、系列相関があるとき月次比率の√12倍年率化が比率を系統的に過大表示することを導出した。「良すぎる数字」はまず年率化の作法を疑え、という監督の初歩を与える。オルタナ編第1章。
Asness, Krail & Liew (2001) — 市場中立を標榜するヘッジファンド群に、同時点ベータへラグ付きベータを合算すると有意な株式エクスポージャーが現れることを示した。「相関が低い」という売り文句を検証する手続きそのもの。オルタナ編第1章・第16章。
Fung & Hsieh (2004) — トレンドフォロー等の非線形リターンをオプション的ファクターで近似する7ファクターモデル。ヘッジファンドの成績から「戦略に乗っているだけの部分」を控除する実務標準になった。オルタナ編第16章。
Asness (2019ほか) — 平滑化は計測の誤差ではなく、投資家が対価を払って需要する商品特性だと挑発した volatility laundering(変動の洗浄)論。低ボラの装いに価格が付くなら、その効用は誰に帰属しているのか——本書の「平滑さへの需要」仮説の火元。オルタナ編第1章末尾・第Ⅳ部。
Geltner, Miller, Clayton & Eichholtz(教科書) — 商業用不動産の評価・キャップレート・指数構築を体系化した標準教科書。実物資産の「インカムの仮面をかぶったデュレーション」という読み(オルタナ編第15章)の制度的背景の置き場。
資料別紙 Ⅳ 私募の成績評価とパーシスタンス
PMEから複製論まで——「私募は儲かってきたのか」を巡る実証の攻防。
Kaplan & Schoar (2005) — ファンドの全キャッシュフローを同時期に市場指数へ投じた場合と比べるPMEを導入し、私募の成績評価に初めて公開市場という物差しを持ち込んだ。同一GPの前後ファンドの成績相関(パーシスタンス)を初期データで確認した点も含め、以後の全議論の参照点。オルタナ編第2章。
Gredil, Griffiths & Stucke (2014) — 倍率でしか語れないPMEの弱点を、公開市場対比の年率超過収益(Direct Alpha)として定義し直した。委員会資料に「年率○%の超過/劣後」と書けるのは、この仕事の恩恵である。オルタナ編第2章・補遺B。
Harris, Jenkinson & Kaplan (2014) — 機関投資家の実データ(Burgiss)で北米バイアウトの対S&P500超過をPMEベース年率約3%と推計し、同時に商用データベース間で結論が変わりうる系統差を明示した。「どのデータベースで測った数字か」を監督者の標準の問いに変えた。オルタナ編第2章。
Harris, Jenkinson, Kaplan & Stucke (2023) — パーシスタンス再検証の現在の到達点。2000年代以降、バイアウトでは前ファンドの四分位が次を予測しなくなり、VCでは残存する——「実績上位を選ぶ」という選定実務の統計的基盤を、資産クラス別に書き換えた。オルタナ編第2章・第4章。
Phalippou (2020) — 近年のバイアウトが費用控除後で公開株と大差ない一方、巨額の成功報酬が運用者側に蓄積したことを突きつけた「億万長者製造機」批判。鋭いが、鋭さの根拠が感情でなく数字にあるため、反論する側にも検証を強いる。オルタナ編第2章の論争の一角・論考別紙〔報酬という憲法〕Ⅴ。
Gompers & Lerner (1999) — 米VCパートナーシップの報酬を体系的に分析した最初期の実証(JFE 51(1))。報酬構造が経験や成績によらずほぼ一様で硬直的であることを記録し、2/20の見出しが数十年動かないという観察の学術的起点。論考別紙〔報酬という憲法〕Ⅰ。
Gompers (1994; 2004) — "The Rise and Fall of Venture Capital"(Business and Economic History 23(2))と、Eckbo編ハンドブック第9章。1946年の閉鎖型会社から1959年のリミテッド・パートナーシップへ、1978年歳入法と1979年労働省「慎重な者」規則の比較(後者の効果が大)、年金比率15%→46%——器の発生史の標準的な典拠。報酬という憲法Ⅴ系譜。
Robinson & Sensoy (2013) — "Do Private Equity Fund Managers Earn Their Fees?"(RFS 26(11))。837本・1984〜2010年。報酬の高さや運用者持分の低さはフィー控除後の成績と関係を持たず、資金調達の好況期に報酬が増え成績非連動の構成へ移る。条項が好況期に固まることの実証。報酬という憲法Ⅴ系譜。
Fleischer (2008) — "Two and Twenty: Taxing Partnership Profits in Private Equity Funds"(NYU Law Review 83(1))。利益持分の課税問題を正面から論じ、「2と20」を業界標準の呼称として学術に定着させた。税務が型を固定する機構の出発点。報酬という憲法Ⅴ系譜。
Debevoise & Plimpton (2000) — Private Equity Report Fall 2000。全額回収先行から案件別分配への移行が過剰分配を生み、GPクローバック条項を要請した機序を、実務の側から最も明快に記す。年代の特定はしない。報酬という憲法Ⅲ・Ⅴ系譜。
Mardini & Veith (2018) — "ILPA and Other Influences on LPA Terms"(The LPA Anatomised 第7章)。ILPA原則の受容史——費用条項の伸長、案件別キャリーの米国比率(2011年52%→2016〜17年22%)、契約が一様から程遠い実態。「標準化は複雑さを減らさない。複雑さの中の位置を変える」の係留。報酬という憲法Ⅴ系譜。
MJ Hudson (2020) — 英系コンサルタントによる年次のPEファンド条件調査(Private Equity Fund Terms Research 2020年版)。キャッチアップ機構を持つファンド約84%・うち約74%が100%型という実務分布の原典であり、条項の「市場標準」を語るときの数少ない公開系列。論考別紙〔報酬という憲法〕数値例1。
Phalippou & Gottschalg (2009) — 清算済みサンプルの偏りと残余NAVの楽観を補正すると、費用控除後の私募リターンは見かけより大きく下がるとした初期の体系的疑義。以後の「儲かってきたのか」論争の口火。オルタナ編第2章。
Stafford (2022) — 小型バリュー株を選び、レバレッジをかけ、満期保有的な評価で持てば、バイアウトのリターン特性は公開市場でおおむね複製できると示した。私募プレミアムは資産の性質か、それとも器と会計の性質か——解釈を根本から揺らす。オルタナ編第2章・第13章。
Ilmanen, Chandra & McQuinn (2020) — 私募の期待リターンを公開ファクター・レバレッジ・流動性・手数料に分解して積み上げたAQRの総括。「歴史的な非流動性プレミアムの機械的な上乗せ」を戒める、期待値設定の実務への直接の投薬。オルタナ編終章・未解決③。
Korteweg & Sorensen (2017) — GP固有のスキルと運をベイズ推定で分離し、観測される四分位順位の大半がノイズであること、したがって中間成績が最終成績の弱い予測子であることを示した。再コミット判定に統計的謙抑を求める根拠。オルタナ編第2章・第5章。
Korteweg (2019) — NAVベース・キャッシュフローベース・取引価格ベースという私募リスク調整の三系統を整理したサーベイ。手法間でベータ推定が大きく散らばる現状の見取り図であり、「PEのベータは誰も知らない」(終章・未解決①)の土台。
Ang, Chen, Goetzmann & Phalippou (2018) — 商用指数に頼らず、LPのキャッシュフローだけから私募リターンの時系列を推定する手法を構築。報告NAVから独立した第二の物差しを与える。オルタナ編第2章。
Sorensen, Wang & Yang (2014) — GP報酬・レバレッジ・非流動性を単一の評価モデルに統合し、費用と流動性拘束の控除後にLPへ残る価値がいかに薄くなりうるかを理論の側から示した。報酬交渉(オルタナ編第6章)の背景。
Jenkinson, Sousa & Stucke (2013) — 監査済みのNAVですら、次号ファンドの募集期には楽観へ傾くことを実証。評価の独立性は制度ではなく局面の関数である——募集期NAVを割り引いて読むというKRI実務の根拠。オルタナ編第5章。
Brown, Gredil & Kaplan (2019) — NAVの吊り上げは成績下位のGPに集中し、トップGPはむしろ保守的にマークするという分布を特定した。「誰の評価をまず疑うか」に優先順位を与える。オルタナ編第5章。
Barber & Yasuda (2017) — GPは中間成績のピークに合わせて次号ファンドを募集する——募集のタイミング自体が私的情報の信号であることの実証。募集書類のトラックレコードの読み方を変える。オルタナ編第4章。
Dimmock, Wang & Yang (2024) — 支出義務と取り消せないコミットメントの下でのエンダウメントの動的モデル。平時に最適だった配分が、危機には自己増殖的な資金繰り圧力へ転じる機構を形式化した。オルタナ編第3章。
資料別紙 Ⅴ 流動性・配分・私募市場の構造
資金繰りの理論と、私募市場の全体像を掴むための文献。
Takahashi & Alexander (2002) — コール・分配・NAVの推移を少数のパラメータで再現する決定論的ペーシングモデル。Yale投資事務局の実務から生まれ、以後のあらゆる資金繰り予測の基準器になった。単純さは弱点ではなく、前提を検査できるという強みである。オルタナ編第3章・図5・補遺C、実用別紙第2号。
Robinson & Sensoy (2016) — 大標本のファンド・キャッシュフローで、コールも分配も市況に順循環すること、そして危機ではコールは続くのに分配だけが大きく止まる非対称を実証した。ペーシングを平均ではなくストレスで検査すべき理由の実証的根拠。オルタナ編第3章。
Ang, Papanikolaou & Westerfield (2014) — 売却機会が確率的にしか到来しない資産を含む動的配分問題を解き、非流動性が課す「影の価格」と配分上限の理論的根拠を与えた。流動性の価格は平時ほぼゼロ、危機に跳ぶ——直感の定式化。オルタナ編第3章。
Kaplan & Strömberg (2009) — LBOの契約構造・統治・リターンの実証を整理した標準サーベイ。この資産クラスの制度の全体像を一本で掴むならこれ。オルタナ編第13章。
Jensen (1989) — 集中所有・高レバレッジ・強い経営規律を備えたLBOは、分散所有の公開会社より優れた統治形態だと論じた「公開会社の日蝕」。PE楽観論の知的原点であり、以後の実証はすべてこの主張の検証として読める。オルタナ編第13章。
Gompers, Kaplan & Mukharlyamov (2016) — GP自身への大規模サーベイ。価値創造の重心が金融工学から営業改善へ移ったという業界の自己認識と、評価はDCFより倍率法という実務の実像を記録した。卓の向こう側を知る一次資料。オルタナ編第13章・第6章補論。
Block, Jang, Kaplan & Schulze (2024) — プライベート・デットのGP・LPへのサーベイ。何を貸し、どう値付けし、どう監視しているかの自己申告の記録——デフォルト・サイクル未経験の資産クラスの現在地。オルタナ編第14章。
Aramonte & Avalos (2021) — BISの視座から私募クレジット市場の拡大と銀行システムとの接続を鳥瞰。個別LPの監督問題がシステムの問題に変わる入口。オルタナ編第19章。
FSB/IMF(年次・2024) — ノンバンク金融仲介の脆弱性監視と私募クレジット特集。データギャップ——全体像は当局にも見えていない——の公式な自認を含む点が重要。オルタナ編第19章・終章未解決⑥。
Credit Suisse (2021) Archegos報告 — 取締役会が委嘱し公開した内部検証。信用部門が警告し、収益部門が押し切る過程が実名で記録されており、公開された失敗解剖の見本として読む。オルタナ編第16章。
EU AIFMD II (2024)/SEC Private Fund Rules (2023) — 流動性管理ツールの装備義務化と、私募ファンドの開示強化(後者は司法審査で無効化)。規制は失敗の後を追い、時に法廷で止まる——規制の潮流と限界を読む素材。オルタナ編第3章・第18章。
資料別紙 Ⅵ 監督・組織・LPの実証
委ねる側そのものを研究対象とする、比較的新しい水脈。
Lerner, Schoar & Wongsunwai (2007) — LPの類型(エンダウメント・年金・銀行系等)によってPE投資の成績に大差があることを示し、委ねる側そのものを初めて本格的な研究対象に変えた。当時のエンダウメント優位の記録として読む。オルタナ編第2章・第7章。
Sensoy, Wang & Weisbach (2014) — そのエンダウメント優位が2000年代に消失したことを追試した。アクセスと目利きの優位は市場の成熟とともに削られる——LPスキルの持続性すら自明ではない、という謙抑の根拠。オルタナ編第7章。
Cavagnaro, Sensoy, Wang & Weisbach (2019) — LPの選定成績の機関間差をブートストラップで検定し、運だけでは説明できない持続的なLPスキルが実在する——ただし一部の機関に偏在する——ことを示した。「能力あるLPは実在するが稀少である」の直接の実証であり、選ぶ側の技芸を統計の対象に引き上げた。オルタナ編第4章補論。
Fang, Ivashina & Lerner (2015) — 大手機関の共同投資案件の成績を検証し、GPが外へ持ち込む案件に逆選択が働くことを示した。「無報酬の共同投資」という誘い文句の隠れた価格の実証。オルタナ編第6章。
Brown, Goetzmann, Liang & Schwarz (2008; 2012) — 法定開示書類から運営リスクを合成したω-scoreがヘッジファンドの破綻を予測すること、そして投資家が高リターンの前でその情報を無視して資金を投じることの両方を実証した。ODDが飾りでない理由。オルタナ編第4章。
Andonov, Hochberg & Rauh (2018) — 米公的年金の理事会に政治任命・加入者代表が多いほどPEの成績が低いという関連を大標本で示した。統治の構造が資産クラスの成果に直結する——第Ⅳ部の診断に実証の足場を与える。オルタナ編第8章・第Ⅳ部。
Begenau & Siriwardane (2024) — "Fee Variation in Private Equity"(Journal of Finance 79(2))。米公的年金200機関・私募ファンド2,600本を突合し、同一ファンド内で投資家ごとにフィー控除後の成績が分散すること、大半のファンドが二つの料率階層を持つこと(差は管理報酬約91bp・キャリー約5.8ポイント)、全員が最良条件を得ていれば100ドルあたり8.50ドル多く残ったことを示した。「同じファンドで、誰が何を払っているか」の実証。報酬という憲法Ⅵ階層。
Nanda, Wang & Zheng (2009) — "The Rise of the Multiple Share Class Mutual Fund"(Journal of Financial Intermediation 18(3))。同一ファンド内に複数のシェアクラスを導入すると、短期・不確実な投資家を引き寄せ、資金流入の水準と変動が増し、成績が悪化する。報酬の型による自己選択が外部性を生むことの実証。報酬という憲法Ⅵ階層。
Halac, Kremer & Winter (2018) — "Raising Capital from Heterogeneous Investors"(American Economic Review 110(3), 2020掲載)。戦略的リスクの下で資金を集める最適スキームは、投資額に応じて差別的なネットリターンを払い、大口ほど高い。規模による料率階層の理論的根拠。報酬という憲法Ⅵ階層。
Clark & Urwin (2008) — 卓越した少数機関の観察から、明確な使命・強い執行機能・リスク文化といったベストプラクティスを蒸留した規範論の代表。現状の記述ではなく到達水準の物差しである点が、本書の性格(問二十六)とも響き合う。両編の組織論の参照点。
Janis (1972) — 結束の高い集団が、異論の自己検閲によって、構成員の誰ひとり個人では犯さない判断へ滑る「集団思考」の古典。ピッグス湾侵攻などの失敗からの帰納で、成功体験を積んだ投資委員会にこそ当てはまる。伝統編第5章補論。
Klein (2007) — 計画が「既に失敗した」と仮定して各自に敗因を書かせるプレモーテムの提唱。封じられた異論に、安全に発言できる様式を与える会議の技術。伝統編第5章補論。
Kahneman, Sibony & Sunstein (2021) — 同じ判断者が同じ案件に日を変えて別の答えを出す「ノイズ」の体系論。判断衛生と決定記録という処方は、「選び方を、誰の記録に残すか」の行動科学的根拠。伝統編第5章補論。
Ennis (2020以降) — 米国の公的年金・エンダウメントの実績を少数の市場指数の組合せと突き合わせ、オルタナティブ配分が費用控除後で系統的に劣後してきたことを示した一連の実証。本書の懐疑の背骨であり、「事件にならない失敗」の定量記録でもある。オルタナ編第7章。
Swensen (2000/2009) — エンダウメント運用の思想を初めて体系として外部化した原典。読みどころは配分の結論ではなく、それを可能にした条件——長期在職・独立性・組織資本——の明示にある。模倣者はリターンでなくコスト構造だけを手に入れた。オルタナ編第7章。
ILPA(各種) — 報告テンプレート、サブスクリプション・ライン、NAVファイナンス、GP主導セカンダリーの各ガイダンスとDDQ。LPの集合的経験を契約と様式の標準へ変換し続ける営みで、オルタナ編第Ⅱ部の骨格はこれに多くを負う。実用別紙第3号の準拠先。分配については、原則3.0(2019)が全体清算型を最善の実務と明言しつつ案件別型の要件(実現済み原価の回収・減損の穴埋め・費用累計の回収・預託30%以上)を列挙し、モデル契約は全体清算版(2019・2020改訂)と案件別版(2020)を併存させる——後者の第14条が修正型(ハイブリッド)ウォーターフォールの事実上の標準形である(報酬という憲法Ⅲ)。
経済産業省『投資事業有限責任組合モデル契約・解説』(令和7年版・2025) — 日本語の分配条項の正典。ヨーロピアン・ウォーターフォール(Whole Fund)とアメリカン・ウォーターフォール(Deal by Deal)の二類型、GPクローバックと中間GPクローバック、エスクロー・相互保証を条文例と解説で示し、我が国の実務はヨーロピアンが多いと明言する。本書の用語はこの語法に接続する(報酬という憲法Ⅲ)。
内閣官房 (2024) アセットオーナー・プリンシプル — 体制整備・リスク管理・利益相反管理をアセットオーナー自身の責務として明文化した政策文書。命令はあるのに教科書がない——本書が読まれる制度的理由の一次資料。統合序章・両編序章。
金融庁 モニタリングレポート(年次) — 投資運用業の業界構造・手数料・ガバナンスへの監督当局の定点観測。委任先の業界を発注者の側から掴むための一次資料。
NGFS/PCAF — 中央銀行・監督当局ネットワークの気候シナリオ標準と、投融資排出量の会計基準。私募資産の気候計測が「推計の連鎖」にならざるを得ない理由も、この作法から読み取れる。オルタナ編第20章。
石田英和 (2024) — 企業年金の「運用しない運用」を診断し、発注者と運用会社の駆け引きを解約ゲームとして定式化して、短期成績で解約しないコミットメントなしに長期投資は成立しないと論じた(証券アナリストジャーナル62巻1号)。国内実務家による解約規律の先行する問題提起であり、伝統編第5章の統計的規律は、このコミットメントを可能にする物差しの供給として接続する。伝統編第5章。
中村明弘 (2026) — 企業年金スチュワードシップ推進協議会による「協働モニタリング」——複数の企業年金が合同で運用機関のスチュワードシップ活動を検証する枠組み——の実施状況を報告した(証券アナリストジャーナル64巻7号)。単独の基金では成立しない監督を束で成立させる、LP集合行動の株式版の国内実装。論考別紙〔行使できない株主たち〕Ⅲ。
新井亮一 (2026) — 日本の大学基金を米国トップ大学と比較し、簿価主義の学校法人会計による実現利益志向・理事会のリスク回避・寄付税制を受入れ以前の構造的課題として診断、方法論と実務知見の共有を「不可欠」と明言した(証券アナリストジャーナル64巻7号)。会計制度が認識論を決めるという命題の実務側の裏書きであり、日本語言説における方法論需要の最初の明示的表明。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅱ。
資料別紙 Ⅶ 市場理論とファクター
リスクの対価という土台と、ファクター動物園の栄枯。
Sharpe (1964) — 分散で消せないリスクだけが対価を持つ、というCAPM。実証には繰り返し棄却されてなお、「リスクの対価」という語彙と、ベータという物差しを与え続ける土台である。棄却された理論が言語として生き残る、金融論の見本。伝統編第1章。
Fama & French (1993) — 市場にサイズとバリューを加えた3ファクターモデル。以後「アルファ」は市場超過ではなくファクター控除後の残差を意味するようになった——一本の論文による、業界の定義の書き換え。伝統編第1章。
Jegadeesh & Titman (1993)/Carhart (1997) — 直近の勝者が勝ち続けるモメンタムの発見と、それを第4のファクターとして投信評価に持ち込んだ拡張。「持続するスキル」に見えた成績の多くが、モメンタムの控除で消える。伝統編第1章・第2章。
Fama & French (2015) — 収益性と投資を加えた5ファクターへの拡張。動物園の中心街の、現在の区画整理。伝統編第1章。
Novy-Marx (2013) — グロス収益性が将来リターンを予測するという、クオリティ系ファクターの代表的な根拠。バリューと組み合わせて初めて効く、という実務的含意も残した。伝統編第1章。
Frazzini & Pedersen (2014) — 低ベータ銘柄のリスク調整後超過(BAB)を、投資家のレバレッジ制約という構造で説明した。アノマリーに「なぜ裁定されないか」の理由を添えた見本として読む。伝統編第1章。
Harvey, Liu & Zhu (2016) — 公表された数百のファクターを多重検定の観点から棚卸しし、慣行のt値2では偽発見が大量に混じるとしてt≧3を提唱した。ファクター動物園への最初の検疫。伝統編第1章。
Hou, Xue & Zhang (2020) — 450超のアノマリーを統一手続で再現実験し、6割以上が再現に失敗することを示した。動物園の在庫一掃であり、「発見」を仕入れる側の検収基準を変えた。伝統編第1章。
McLean & Pontiff (2016) — アノマリーのプレミアムは学術誌での公表後に有意に減衰する——市場は論文を読んで学習する、の実証。スキルの半減期という本書の主題(マネーボールと同型)の学術版。伝統編第1章・第2章。
Litterman & Scheinkman (1991) — 債券リターンの変動の大半が水準・傾き・曲率の三因子で説明されることを示した。デュレーション一本槍から多因子の金利言語へ——金利リスクの語彙の原典。伝統編第3章。
Ben Dor et al. (2007) — スプレッドの変化がその水準に比例することを利用したDTS(デュレーション×スプレッド)。格付や年限を跨いでクレジットリスクを足し算できる共通単位を与えた実務標準。伝統編第3章・第17章。
Cochrane (2011) — リターン予測可能性を巡る四半世紀の論争を「期待リターンは時変する」という一枚の絵に総括した学会長講演。CMA——期待リターンを外生の定数でなく検証対象の変数として扱う統治——の哲学的土台。伝統編第21章。
Welch & Goyal (2008) — 株式プレミアムの予測変数群を包括的に検証し、標本外ではほとんど機能しないことを示した。最上流の数字は当てられない——予測の謙抑と、前提の複数ソース化の根拠。伝統編第21章・終章。
Dimson, Marsh & Staunton (2002/年次) — 一世紀を超える多数国のリターンデータの整備。株式プレミアムの実在と、国・時代によるその大きな不安定の、両方を同時に記録している点が価値。伝統編第1章・第21章。
Ilmanen (2011) — あらゆる資産・戦略の期待リターンの源泉を集成した百科事典。CMAを作る側と検証する側、双方の机上の必読書。伝統編第21章。
Ang (2014) — 「資産はファクターの容れ物にすぎない」という視座で書かれた体系的教科書。ノルウェー検証(AGS09)の理論的骨格を書籍の形にした、配分言語の転換の正典。伝統編第8章。
Ross (1976) — 無裁定の下でリターンが少数の共通要因構造を持つなら、期待リターンは要因感応度の線形結合で決まることを示した裁定価格理論(APT)。「なぜ少数の要因か」の理論的原点。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅲ。
Merton (1973) — 投資機会を左右する状態変数へのヘッジ需要が要因ごとの価格を生む異時点間CAPM。APTと別の道から同じ低次元世界に到達した。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅲ。
Chen, Roll & Ross (1986) — 産業生産・インフレ・金利等のマクロ変数が株式リターンの横断面に価格づけられていることの古典的検証。ファクター台帳の第一層(マクロ族)の原典。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅳ。
Carhart (1997) — モメンタムを加えた4ファクターモデルで投信の持続的アルファがほぼ消えることを示した。スタイル族の標準装備と、ファクター調整の実務標準の確立。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅳ・伝統編第2章。
Frazzini & Pedersen (2014) — 借入制約ゆえ投資家は高ベータへ殺到し、低ベータが割安に残る(Betting Against Beta)。プレミアムの源泉が「リスク補償」でなく「制約」でありうることの代表実証。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅳ。
Merton (1980) — 分散の推定は観測の頻度を上げれば締まるが、期待リターンの推定は観測の期間でしか締まらない——同じ標本を細かく刻んでも期待リターンの証拠は一片も増えない——ことを示した探索的研究(JFE 8(4), 323–361)。リスクファクターが無争でプレミアムファクターが係争的であることの、統計的根拠の原典。書誌・内容とも原典照合済み(2026-08)。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅳ。
Harvey, Liu & Zhu (2016) — 公表された数百のファクターを多重検定の観点から再検査し、有意性基準の引き上げ(t>3)を提言。「ファクター動物園」への学界自身の検疫。台帳に載せる資格の議論の土台。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅶ。
Ang (2014) — 『Asset Management』。「資産クラスは包装紙、ファクターが中身」という世界観を機関運用の設計原理として体系化した、ファクターの言語の正典的教科書。論考別紙〔ファクターという言語〕全体。
Rosenberg (1974)/Litterman & Scheinkman (1991)/Gordy (2003) — ファクターの制度史三点: BARRAによる株式リスクモデルの産業化/金利の水準・傾き・曲率(ALMへ越境した「リスクファクター」)/規制資本の加法性が単一ファクターを数学的に強制することの証明(バーゼルの選択は無知でなく定理)。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅱ。
Michaud (1989) — 平均分散最適化は入力の推定誤差を増幅して配分に写す「誤差最大化装置」だと指摘した。出力の精密な見かけが入力の粗さを隠す——最適化への最初の、そして今も最有力の警告。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅸ。
Chopra & Ziemba (1993) — 期待リターンの推定誤りは分散の誤りの約11倍、共分散の約21倍の効用損失を生むことを数値実験で示した。どの入力を最も疑うべきかの序列——最も危険な入力を資本の競争的配分が要求する、という本書の診断の定量的土台。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅸ。
Black & Litterman (1992) — 期待リターンを市場均衡に錨づけ、独自見解は確信度つきの偏差としてのみ許す推定枠組み。「推定の自由度を殺す」ことが実用に耐える最適化の前提だという承認であり、参照ポートフォリオという単純な錨の理論的先祖。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅸ。
Jagannathan & Ma (2003)/DeMiguel, Garlappi & Uppal (2009) — 空売り制約が「誤った理由でも」縮小推定として働き推定誤差を抑えること、単純な等分(1/N)が精緻な最適化群を標本外で上回ること。単純さは無知ではなく頑健性である、の実証の双璧。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅸ。
Hansen & Sargent (2008) — 『Robustness』。モデルが不確かなときの合理的行動は、最良モデルの最適化ではなく、もっともらしいモデル集合の下で壊れにくい規則の選択だとするロバスト制御の体系。最上段の単純化を決定理論の側から正当化する。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅸ。
Danielsson et al. (2016)/FRB SR 11-7 (2011) — リスク測度がモデル間で大きく食い違い、乖離が危機時に最大化することの実証と、モデル台帳・独立検証・実効的挑戦を要求する銀行監督のモデルリスク管理指針。前者は「最も要るときに最も信用できない」の証拠、後者はアセットオーナーがまだ輸入していない道具箱。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅸ。
Mehra & Prescott (1985) — 標準的な消費ベースの均衡モデルでは観測された株式プレミアムの大きさを合理的なリスク回避度で説明できない——株式プレミアムパズル(JME 15(2))。「存在は盤石・大きさは謎」を四十年間支え続ける原典。パズルを併記したまま保有するのが第一級の作法である。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ。
Jegadeesh & Titman (1993) — 過去3〜12か月の勝者買い・敗者売りが有意な超過リターンを生むことの最初の体系的実証(JF 48(1))。経験的に最強のファクターの出生証明書。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ・伝統編第1章。
Asness, Moskowitz & Pedersen (2013) — バリューとモメンタムのプレミアムが8つの市場・資産クラス(各国株・株価指数・通貨・国債・商品)に遍在し、互いに負相関であることの実証(JF 68(3)、Value and Momentum Everywhere)。「どこにでもある」ことが複数標本基準の最良の充足例。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ。
Geczy & Samonov (2016) — 1801年からの米国月次価格データを新規構築し、モメンタムを二世紀の標本外で検証(FAJ 72(5))。発見前の百年でも働いていた——データ漁りへの最強の反証形式。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ。
Daniel & Moskowitz (2016) — モメンタムは稀に深く暴落する——市場急落後の反発局面で空売り側の敗者が急騰する形で、1932年と2009年に発生(JFE 122(2))。「痛む日の固有の形」を約款として知るための必読。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ。
Novy-Marx (2013) — 粗利益率が簿価時価比率と同等の横断面予測力を持つことを示し、クオリティ族に実証の背骨を与えた(JFE 108(1))。バリューの「もう片面」という題名自体が、スタイル間の内的連関の要約。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ。
Asness, Frazzini & Pedersen (2019) — 収益性・成長・安全性の合成としての「クオリティ」が各国横断でプレミアムを持つことの実証(Quality Minus Junk、RAS 24(1))。頑健だが、「質」が束であることの証明でもある——束のどの糸が報酬を運ぶかは未決。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ。
Haugen & Baker (1991)/Novy-Marx & Velikov (2022) — 低ボラティリティ・アノマリーの先駆(時価総額加重の平均分散非効率、JPM 17(3))と、BAB実装への批判(ランク加重の実質等加重化・マイクロ株依存・収益性への重複、JFE 143(1))。発見と検疫を対で読む——台帳の作法の縮図。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ。
Koijen, Moskowitz, Pedersen & Vrugt (2018) — キャリー概念を株式・債券・通貨・商品へ一般化し、横断資産でリターンを予測することを実証(JFE 127(2))。戦略族が資産クラスを跨ぐことの代表例。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ。
Brunnermeier, Nagel & Pedersen (2008) — FXキャリーのリターンは負の歪度=クラッシュリスクの補償であり、資金流動性の枯渇時に急激な巻き戻しが起きる(NBER Macroeconomics Annual 23)。「階段を上り、エレベーターで落ちる」の学術版。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ。
Moskowitz, Ooi & Pedersen (2012)/Hurst, Ooi & Pedersen (2017) — 58の先物・フォワードでの時系列モメンタムの実証(JFE 104(2))と、その1880年までの遡及検証——各十年区切りすべてで正(JPM 44(1))。トレンドの一世紀の証拠。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ。
Adrian, Crump & Moench (2013) — 線形回帰三段でターム・プレミアムを推定するACMモデル(JFE 110(1))。NY連銀の公表系列は2010年代に複数期間の負値を示した——「符号も動く」の観測装置。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ。
Asvanunt & Richardson (2017) — 金利・株式エクスポージャーを調整した後にも正のクレジットリスクプレミアムが残ることの実証(JFI 26(3))。「重複を剥がすと薄い、しかし残る」の係留点。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ・伝統編第3章。
Amihud & Mendelson (1986) — 期待リターンは非流動性(ビッド・アスク・スプレッド)の増加関数であることの理論と実証(JFE 17(2))。非流動性プレミアムの理論的基礎——理論の明晰さと私募での検証困難の落差が、条件付き収載の根拠になる。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ。
Franzoni, Nowak & Phalippou (2012) — PEリターンは公開株と同じ流動性リスクに有意にロードし(プレミアム約年3%)、調整後のアルファはゼロに低下する(JF 67(6))。私募の「非流動性プレミアム」の受領検証が写像に依存することの実証。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ・オルタナ編第1章。
Banz (1981) — 小型株の高リターン——最初の横断面アノマリーの発見(JFE 9(1))。効果が超小型に集中する非線形性は原論文自身が注記していた。台帳の降格記録の起点として、発見の重みごと保存する。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ。
Shumway (1997)/Shumway & Warther (1999) — CRSPの上場廃止リターン欠落の発見(JF 52(1))と、Nasdaq標本での補正——補正後にサイズ効果自体が消失(JF 54(6))。測定の穴が四十年のプレミアムを支えていた可能性の実証。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ。
Asness, Frazzini, Israel, Moskowitz & Pedersen (2018)/Alquist, Israel & Moskowitz (2018) — サイズ再検査の双璧: ジャンクを統制すれば復活するという条件付き弁護(JFE 129(3))と、単独プレミアムは弱く国際的に頑健でないという批判的総括(JPM 45(1))。同一グループが弁護と批判の両側を書いていることも含めて、検証文化の見本。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ。
Pástor, Stambaugh & Taylor (2021; 2022) — 均衡では緑資産の期待リターンは選好の分だけ低い(JFE 142(2))。2010年代の緑株の好成績は環境選好の予想外の高まり=フローで説明され、高い期待リターンの証拠にならない(JFE 146(2))。実現と期待が逆符号でありうる——収載保留の判定を支える対の理論と実証。論考別紙〔ファクターという言語〕Ⅹ。
資料別紙 Ⅷ アクティブ運用の評価と委任
算術・スキルの識別・採用と解約——伝統資産の監督の背骨。
Sharpe (1991; 1992) — 市場参加者全体で見ればアクティブは控除前で市場平均・控除後で必敗という二頁の算術と、リターン系列だけから保有スタイルを推定する分析。この分野の熱力学第一法則と、最初の計測器。伝統編第2章・第6章。
Pedersen (2018) — 指数の入替えや新規発行がある現実の市場では、Sharpeの算術は完全には閉じないという現代的な但し書き。算術を教条でなく基準線として正しく使うために、反論ごと読む。伝統編第2章。
Grinold (1989)/Grinold & Kahn — 基本法則 IR=IC×√BR。超過収益をスキルの質(IC)と独立な機会の数(BR)に分解する言語で、「このマネージャーはどこで勝つ設計か」を問えるようにした。伝統編第2章・第6章。
Clarke, de Silva & Thorley (2002) — 制約下の基本法則 IR=IC×√BR×TC。移転係数TCは、確信度の高い見解をポートフォリオへ書き写せる割合。ベンチマークやガイドラインが運用者の機会集合とずれるほど、スキルは同じでも成果が落ちる——ベンチマーク設計がアクティブ能力を左右する経路の理論的基礎。論考別紙〔参照点の統治〕。
Brooks, Gould & Richardson (2019) — 債券アクティブ・ファンドの超過収益の大半が、恒常的なクレジット等の伝統的リスクプレミアムへのエクスポージャーで説明されるとの実証。「アルファに見えるベータ」の債券版の定量的裏づけであり、ベンチマークを替えた途端に消える超過収益の正体を先回りして示す。伝統編第6章・論考別紙〔参照点の統治〕。
Berk & Green (2004) — スキルが実在しても、資金流入が規模の不経済を通じて投資家の取り分を消す均衡モデル。成績のパーシスタンスが弱いことと、スキルの不在が同値でない理由——実証の読み方を変えた理論。伝統編第2章。
Fama & French (2010) — 投信の控除後アルファの横断分布を、運だけの世界のシミュレーションと比較。大半は運で説明され、正のスキルの証拠は分布の右端に僅かに残るのみ。個別の当たり探しの空しさの定量化。伝統編第2章。
Barras, Scaillet & Wermers (2010) — 偽発見率の統計手法をファンド評価に適用し、ゼロアルファ・ファンドが大半という推計を与えた。「有意に見える」ファンドの何割が偶然かを数える発想そのものが、監督の道具。伝統編第2章。
French (2008) — 市場全体でアクティブ運用に支払われる費用の総額を推計した学会長講演。個々の合理的な期待が、系全体では大きな無駄と両立する構図。伝統編第2章。
Cremers & Petajisto (2009)/Petajisto (2013) — 保有が指数からどれだけ乖離しているかを測るアクティブシェアの導入と追試。高い報酬で指数の近似を買わされるクローゼット・インデクシングの検知器になった。伝統編第2章・第5章。
Goyal & Wahal (2008) — 米機関投資家の採用・解約の大規模データで、解雇されたマネージャーがその後、雇われたマネージャーを上回ることを示した。直近成績を追う採用と解約が往復で富を削る——誤検知を設計した解約規律(伝統編第5章)の実証的根拠。
Lewis (2003) — 予算最下位級のアスレチックスが出塁率の誤価格を突いて勝ち続けた記録。目利きの神話が計測に敗れる過程の、最も広く読まれた民族誌。伝統編第2章の事例ボックス。
Hakes & Sauer (2006) — マネーボール仮説の計量的な確認と、その後日談——出版後、出塁率の誤価格は市場から消えた。公開された優位は死ぬ、というMcLean & Pontiffの力学の球界版。伝統編第2章。
Mauboussin (2012) — あらゆる職業の成果を運と技能の連続体の上に並べ、試行数が少ないほど短期の成績は運に支配されると整理した。年に数件しか試行のないマネージャー選定は、打席数の桁で野球より運任せである。伝統編第2章・第5章。
Romer (2006) — NFLの第4ダウンの選択が勝率最大化から系統的に逸脱し、過剰に安全策(パント)へ寄ることを示した。全プレーが計測され翌日に全国が検証する産業ですら、罰の非対称——作為の失敗は指弾され、不作為は慣行に隠れる——が非難最小化の選択を生む。「受託者のパント」の原型であり、説明責任の設計を誤れば保守化を生むことの実験室証拠。統合本章第1章。
ter Weel (2011) — オランダのサッカーを扱った監督解任の実証。シーズン途中の解任は成績を改善せず、解任直後の回復は、解任しなかった比較対照群と同じ軌道の平均回帰だった。「何かをした」を見せる装置と、成果を改善する装置の乖離——統計的解約規律の対照実験。伝統編第5章・Q&A問九。
Gawande (2007) — 外科医が医療の成果改善を、天才の発見ではなく三つの徳——勤勉・正しさ・創意——の実務として描いた。治療成績のベルカーブが計測・公開されて初めて凡庸の均衡が動き(ポジティブ・デビアンス)、産科を変えたのは不完全だが毎回計算されるアプガー・スコアだった——計測と公開が職業を改善することの、医療での実証。後書きの提案「何かを数えよ、何かを書け」は本書の結論と同型。統合終章Ⅳ・オルタナ編結語。
Jenkinson, Jones & Martinez (2016) — 投資コンサルタントの運用会社推奨に、事後成績への予測力が見出せないことの実証。推奨は免責にならない——推奨の事後検証という規律(伝統編第5章)の根拠。
CEM Benchmarking(Beath & Flynn ほか) — 世界の年金のコスト・成績・内製度を長期パネルで持つ稀有な実証群。規模と内製がコストと成果をどう変えるか——内製の経済学(伝統編第7章)の一次資料。
Brinson, Hood & Beebower (1986)/Ibbotson & Kaplan (2000) — 「配分がリターン変動の9割を説明する」の原典と、水準・時系列・横断を区別してその誤読を正した仕事。命題本体と誤読の歴史をセットで学ぶことに価値がある。伝統編第8章。
Pedersen (2015) — 主要なアクティブ戦略がなぜ・どこまで機能するかを「効率的に非効率な市場」の均衡として描いた見取り図。戦略理解の現代的教科書。伝統編第6章・オルタナ編第16章。
資料別紙 Ⅸ パッシブ化とスチュワードシップ
市場の構造変化と株主権の経済学。
Siegel (2003) — ベンチマーク論の古典。債券指数の「バムズ問題」——最も多く借りた発行体に最も多く貸す加重——の命名を含み、指数は中立の観測物ではなく設計物であることを体系的に論じた。伝統編第4章・第16章末補論・論考別紙〔参照点の統治〕。
Appel, Gormley & Keim (2016) — インデックスファンドの保有比率が高い企業ほど、取締役の独立性などの統治指標が改善することを示した。パッシブは受動的な所有者ではない——「売れない株主」の規律の実証。伝統編第19章・第20章。
Azar, Schmalz & Tecu (2018) — 同一の大株主群が競合他社を共通保有することの反競争効果を、航空運賃で検証した論争的な実証。結論には反論も厚いが、パッシブ化の外部性という問題系を開いた代表作。伝統編第19章。
Bebchuk & Hirst (2019) — インデックス運用への資産集中が進むほど、個別企業の統治改善に投じる誘因は運用者側で構造的に過少になることを理論と実証で示した。パッシブの巨人は「規律の供給者」たりうるか、という問いの法学側の代表作。行使をめぐる沈黙の経済的基盤——誰も統治改善の私的便益を体感しない——の説明装置。論考別紙〔行使できない株主たち〕Ⅱ・伝統編第20章。
Ben-David, Franzoni & Moussawi (2018) — ETFに組み入れられた銘柄のボラティリティが上昇することを示した。器の設計が原資産の価格形成そのものを変える——インデックス選択が中立でない理由の実証。伝統編第19章。
Broccardo, Hart & Zingales (2022) — 社会的目的を持つ株主にとって、退出(ダイベストメント)と発言(議決・対話)のどちらが実効的かを理論化し、概ね発言に軍配を上げた。スチュワードシップの経済学の現在地。伝統編第20章。
Dimson, Karakaş & Li (2015) — ESGエンゲージメントの成功案件に事後の超過収益が伴うことを示した代表的実証。対話の成果は測りうる——「様式の遵守」から「検証されるスチュワードシップ」への転換の根拠。伝統編第20章。
Gabaix & Koijen (2021) — 市場全体への資金流入が時価総額をその数倍動かすという非弾力的市場仮説。「自分が市場である」規模の投資家は、自らのフローの価格影響を行動計画に織り込まねばならない——巨大アセットオーナーの市場影響の理論。伝統編第19章。
資料別紙 Ⅹ 統治・参照ポートフォリオ・機関文書
学術誌の外側——機関の自己文書化と公的検証という厚い層。
Ang, Goetzmann & Schaefer (2009) — 2008年の損失を受けてノルウェー財務省が委嘱し、公開した検証報告。アクティブ運用の超過収益の大半が既知のファクターで説明されると示し、ファクターを理事会が承認する政策変数へ格上げした。参照統治の誕生の瞬間であり、機関の自己解剖という様式の原典。伝統編第8章。
Chambers, Dimson & Ilmanen (2012) — ノルウェー・モデルを透明性・低コスト・上場中心・ファクター意識として総括した論文。中核は配分の技術ではなく、透明性による正統性の調達だという読みが、統合本章の制度比較へ接続する。伝統編第8章・統合本章第3章。
Thinking Ahead Institute (2020)/CAIA (2024)/Thinking Ahead Institute & CAIA (2025) — トータルポートフォリオアプローチの実装状況を横断調査した実務レポート群。2020年の基金調査は参加基金の半数が同等条件で年50〜100bpの優位を見込むと報告し、「TPAはスペクトラム」の語を置いた。2024年の『Innovation Unleashed』は四つの次元(統治・単一ポートフォリオ文化・資本の競争・ファクターレンズ)を四機関の証言で定義し、2025年の続編『From Vision to Execution』は10年データでTPA採用基金がSAA型を年平均1.3%上回ったと述べる——ただし採用基金の自己申告と同業比較であり、学術側の総覧(Elkamhi & Lee 2026a)はこれを確立された事実とはしない。TPAは配分手法ではなく組織能力である、という整理が要点。伝統編第10章。
Elkamhi & Lee (2026a) — CFA協会研究財団『Total Portfolio Approach: A Critical Literature Review』(2026年7月)。170点の注釈付き書誌を伴うTPAの学術総覧。TPAを道具でなく「統治原理」と定義し、Should/How/Would/Could の四条件で準備態勢を切る。結論は慎重で、「TPAがSAAに勝つという定理は存在しない」、TPAはアルファ戦略ではなく運用モデル、採用は無作為でないから機関内の前後比較が有益、比べる相手は静的SAAでなく同じ統治制約下の最良の代替政策。失敗の二型(政治的な脆さ/運用上の臆病)、ファクターは「共通言語と診断のレンズ」、「良い損失」に報いる定性の層、事前承認された条件付き行動と決定ログ——いずれも本書が先に置いた命題の、TPA文献の側からの独立の裏書きである。日本・GPIFへの言及は本文・書誌ともにない。伝統編第10章・終章未解決⑧・ファクターという言語Ⅸ・テールは誰のものかⅥ。
Elkamhi & Lee (2025; 2026b) — 同著者の実務誌三部作。『Total Portfolio Approach』(JPM 51(8), 2025)はTPAを配分のレシピでなく「準備態勢の心構え」と定義する。『The Benchmarking Prisoner’s Dilemma』(SSRN, 2025)は、理事会の硬直したベンチマークが指数ハギングと閉じたベータへの依存を合理化する安定だが非効率な均衡を生むことをゲーム理論で示す。『Delegating Benchmarks』(JPM 52(4), 2026)が処方——理事会は全体の参照ポートフォリオと護欄を保ち、マンデート級ベンチマークの設計と保守を運用組織へ委任する「委任ベンチマーキング」。ベンチマークの四役(説明責任・リスクの定義・対外説明・報酬とキャリア)の同時負担が歪みを生むという診断は、参照点の統治Ⅳの二層分離と同じ切断面を設計権の側から切ったもの。著者の一人はHOOPPの総合ポートフォリオ責任者であり、提案は業界標準ではなく現職実務家の提案として読む。参照点の統治Ⅳ。
NZ Super/CPP Investments/GIC/NBIM(公表文書) — 参照ポートフォリオの検証文書、75年持続可能性への接続、20年実質収益率、全保有・全議決の開示。学術誌の外で成熟した「機関の自己文書化」という第四の水脈の代表例。伝統編第9章・統合本章第3章・機関要覧。
GPIF/JST(公表文書) — 基本ポートフォリオ・業務概況書・運用の基本方針といった日本側の一次資料。本書の日本診断(両編第Ⅳ部)の記述は、これら公表資料への係留を原則とする。
Bank of England/TPR (2022–23) — 英LDI危機の公的検証と、レバレッジ・担保バッファへの規制対応。事件が数ヶ月で制度に変換される速度の見本として、日本のポストモーテム不在との対照で読む。伝統編第11章。
証券取引等監視委員会・金融庁 (2012) — AIJ投資顧問の検査結果と行政処分の公表資料。残高の直接確認という基本の欠落が制度全体を終わらせた過程の、国内で最も重い一次記録。伝統編第12章。
CMA (2018; 2019) — 英国の投資コンサルタント・受託運用市場に対する競争当局の調査報告と是正命令。委任の市場は放置しても競争しない——発注者が水準を定めるほかない理由の制度記録。伝統編第7章。
CalPERS/Gilmore (2025) — 2025年1月13日の投資委員会資料『Total Portfolio Approach and Transition Considerations』。株式70/現金30の参照ポートフォリオを理事会採択のリスク選好の実装と位置づけ、新規投資はベータ等価の現有資産を売って賄い(インフラ50億ドル・ベータ0.6→株式30億+現金20億の売却)、成果を参照ポートフォリオ対比で測ると定める。米最大の公的年金がTPAへ移る際の統治の言葉の一次資料。投資責任者は同年、TPAで年50〜60bpを付加できると公言した(White 2025・Top1000funds)——目標を先に書いた機関だけが事後に採点されうる、の実例。伝統編第9章・終章未解決⑧。
Urwin & Hayman (2026) — CFA協会研究・政策センターのTPA移行実務指針(2026年7月)。TPAを単一手法でなく「実践のスペクトラム」、投資モデルでなく「組織変革」と定義し、信念設定・統治レビュー・参照ポートフォリオ設計という基礎的段階だけでも便益を取れる——完全統合は必須でない——と明言した。採用年表(革新者2005〜13年=GIC・NZ・Future Fund・CPPIB)と機関の自己評価調査(現在3.5→3〜5年後4.3)を収載。統治正典Clark–Urwin(2008)の著者によるTPA指針であり、統治の水脈とTPAの水脈の合流点。伝統編第13章の最上段の注記——教科書像のL5は実務に存在しない——の、国際標準設定機関による独立の裏書き。伝統編第13章・第10章。
資料別紙 Ⅺ 説明責任と正統性 — 第五の水脈
統合本章が渡った、金融の外の水脈。
Bovens (2007) — 説明責任を、情報の提供・問い答える討議・判定と帰結の三要素が揃った社会関係として定義した概念枠。開示は三分の一にすぎない——日本の「出したが、対話がない」状態を過不足なく記述できる。統合本章第1章。
Suchman (1995) — 組織の正統性を実利的・道徳的・認知的の三類型に整理した組織論の古典。最後まで組織を守る認知の層は開示では作れず、教育によってのみ蓄積される——統合本章の設計全体の理論的根拠。統合本章第1章・第5章。
Hirschman (1970) — 組織の劣化への応答を退出・発言・忠誠の三つに分けた古典。退出できない受益者という条件から説明の制度を組み立てる、統合本章の全比較の物差し。統合本章第1章。
Blinder, Ehrmann, Fratzscher, De Haan & Jansen (2008) — 中央銀行コミュニケーション研究の浩瀚なサーベイ。言葉が広報から政策手段そのものへ進化した過程の総括で、専門機関の「先行者」として中銀に学ぶという統合本章の視座の土台。統合本章第1章。
Haldane & McMahon (2018) — 市場向けの語彙は洗練を極めたのに、一般の公衆に届く層が欠けているという中央銀行の二層問題の指摘。市場という即時の審判を持たないアセットオーナーでは、この問題はより深刻に現れる。統合本章第1章・第5章。
Majone (1996) — 規制国家論の古典。選挙で選ばれない非多数派機関への委任が正統でありうる条件——明確で監視可能な目的・専門性・手続と透明性——を整理した。四層アーキテクチャの政治理論的な裏面。統合本章第1章。
Tucker (2018) — 中央銀行と規制機関という「選ばれていない権力」の正統性条件を設計原則に磨き上げた現代の正典。核心は、委任は大きな分配的選択を含んではならないという一線——ESG・国内投資・世代間選択というAOの現代的争点の読み解き方を与える。統合本章第1章。
Rogoff (1985) — 保守的中央銀行家のモデル。独立の理論的根拠は時間非整合への社会の自己拘束である、の定式化。「独立は特権ではなく、社会が自らの短期主義に掛けた錠」の出典。統合本章第1章。
Scharpf (1999) — 統治の正統性をインプット(参加)とアウトプット(結果)に大別した古典。インプットが構造的に欠け、アウトプットが確率的に裏切るアセットオーナーの位置を定める座標軸。統合本章第1章。
Schmidt (2013) — 過程の質——透明・包摂・説明可能な手続——をスループット正統性として第三の源泉に加えた拡張。過程責任・検証可能性の生産という本書の定式の、政治理論側の対応物。統合本章第1章。
Fung, Graham & Weil (2007) — 多分野の開示制度を横断し、開示は情報が受け手の意思決定の連鎖に埋め込まれたときにのみ行動を変えると結論した。「この数字は誰の何を変えるために出すのか」という統合本章の設計原理の出典。統合本章第1章。
Lusardi & Mitchell (2014) — 金融リテラシーの水準・格差・経済的帰結を整理した実証サーベイ。受け手の理解力は所与ではなく、投資の対象である——教育という第四の機能の実証的根拠。統合本章第1章・第5章。
Slovic (1993) — 信頼を毀損する出来事は、同じ大きさの回復材料より遥かに重く効くという非対称の実証。徒歩で来て馬で去る、の学術版。統合本章第1章。
Bohnet & Zeckhauser (2004) — 同じ確率・同じ損失でも、結果を他人の裏切りが決める賭けは、自然が決める賭けより強く忌避される——裏切り回避の実験的同定。罰が損失の額でなく負託への背反に比例する理由の、心理的な根。統合本章第1章。
Karpoff, Lee & Martin (2008) — 米SECの執行事例で、財務虚偽の露見が奪う企業価値のうち法的制裁は一部にすぎず、評判の喪失がその7.5倍に及ぶと推計した。裏切りの値段の実測。統合本章第1章・第4章。
Armour, Mayer & Polo (2017) — 英国の制裁公表を用い、評判損失が罰金の約9倍であること、しかもそれが顧客・投資家を害した不正でのみ生じ第三者被害では生じないことを示した。市場が罰しているのは違法性ではなく裏切りである、の直接証拠。統合本章第1章・第4章。
Kim, Ferrin, Cooper & Dirks (2004) — 信頼の違反を能力と誠実性に分けた修復実験。能力の失敗への信頼は謝罪と是正で回復しうるが、誠実性の失敗は謝罪でもほとんど回復しない——毀損の序列(市場損失<怠慢<虚偽)の実験的基礎。統合本章第1章。
OECD (2017) — 信頼計測の国際ガイドライン。各国統計局向けの標準設問モジュールを整備しつつ、制度信頼の設問の妥当性は対人信頼ほど確立していないと自認する誠実な文書。信任の計測・第一の経路(訊くこと)の作法の置き場。統合本章第1章。
Watzlawick, Beavin & Jackson (1967) — 「人は伝達しないでいることができない」の公理で知られるコミュニケーション理論の古典。沈黙は中立ではなく、最も誤読されやすい発話である——公表後ろ倒しが内容と無関係に毀損した理由。統合本章第1章・第4章。
Lerner & Tetlock (1999) — 説明責任が判断を改善する条件と劣化させる条件を整理したレビュー。聴き手の基準が既知のとき、人は考えを深めるのではなく聴き手に合わせる——説明可能性バイアスと命名した傾きの学術的根拠。統合本章第4章。
Clark, Dixon & Monk (2013) — ソブリン・ウェルス・ファンドの正統性を、国内と国際の二正面で維持し続けるべき「営業免許」として分析した研究書。第五の聴衆(投資先国・国際社会)の理論的出典。統合本章第1章・第2章。
Truman (2010) — SWFの透明性・ガバナンス・行動を採点するスコアボードの提唱。開示は外から測れる、という計測経路の実例であり、物語が開示から離陸した基金を数字で名指しする方法でもある。統合本章第3章。
Benartzi & Thaler (1995) — 評価の頻度が高いほど損失回避が強く効き、株式を持てなくなるという近視眼的損失回避。報告頻度の選択は情報量の選択ではなく、聴き手が体験するリスクの選択である(数値例2-2)の実証的基礎。統合本章第2章。
IWG (2008) Santiago原則ほか一次資料 — 保護主義の閾が迫るなかでSWF側が採択した24の自主原則と、その後の自己評価の蓄積。開示が市場アクセスの対価になりうることの制度記録。統合本章第4章。
資料別紙 Ⅻ 規範文書の工学 — 作り方Ⅷの文献
法とルールを機械で統御する研究線。資料別紙〔本書の作り方〕Ⅷの追補が参照する。いずれも記憶ベースであり出版判断時に原典確認。
Allen (1957) — 法文の起草と解釈に記号論理を適用する提案の嚆矢。「法をコードとして書けるか」という問いの原点。作り方Ⅷ。
Sergot, Sadri, Kowalski et al. (1986) — 英国国籍法を論理プログラムとして書き直した古典。法の形式化の到達点と限界を同時に示した。作り方Ⅷ。
Merigoux, Chataing & Protzenko (2021) — 仏税法を実装した言語 Catala。法文とコードを対照併記する文芸的プログラミングで、Rules as Code の現代的最良例。作り方Ⅷ。
OECD (2020) Cracking the Code — 法令を人間と機械の両方に向けて起草する Rules as Code 運動の政策的総括。NZの Better Rules・仏 OpenFisca 等の実践を整理。作り方Ⅷ。
法令工学(片山ほか、2000年代〜) — 法令をソフトウェアと見なし、仕様記述・検証の技術を適用する日本発の研究プログラム。改め文の自動溶け込み・法令間整合の検証など、本書の工程の「法制局側からの対向研究」。作り方Ⅷ。
Crawford & Ostrom (1995) — あらゆる制度的言明を構成要素に分解する「制度の文法」。法令に限らず内規・業界標準まで機械可読化の射程を広げる理論的な橋(現代化は Frantz & Siddiki の IG 2.0)。作り方Ⅷ。
Lessig (1999)/Deakin & Markou 編 (2020) — 「コードこそ法」の原点と、法は計算可能かを問う批判理論の集成(Hildebrandt らの、計算化は解釈の柔軟性と抗弁の余地を殺すという懸念を含む)。コード正本への批判であり、自然言語正本を保つ構成には正面からは当たらない——という位置取りの根拠。作り方Ⅷ。
資料別紙 ⅩⅢ 翻訳と境界の科学 — 論考別紙第10号の文献
専門知と統治のあいだの媒介役を扱う、分野横断の研究線。論考別紙〔翻訳者はどこにいるか〕が参照する。いずれも記憶ベースであり出版判断時に原典確認。
Crawford & Sobel (1982) — チープトークの基礎モデル。送り手と受け手の利害の乖離が大きいほど、均衡で伝達される情報は粗くなることを示した。翻訳の劣化が性格でなく構造の帰結であることの形式理論。翻訳者Ⅳ。
Collins & Evans (2007) Rethinking Expertise — 専門知の三層区分(無・インタラクショナル・貢献的)。自分では実践できないが専門家と対等に話せる「インタラクショナル・エクスパティーズ」を独立の専門知として命名した。翻訳者の技能の学術名。翻訳者Ⅱ・Ⅳ。
Pielke (2007) The Honest Broker — 科学助言者の四類型(純粋科学者・裁定者・唱道者・誠実な仲介者)。助言職の難所が能力でなく忠誠の設計にあることを整理した、翻訳者の職務記述書の最初の下書き。翻訳者Ⅳ・Ⅴ。
Allen (1977) Managing the Flow of Technology — R&D組織の情報流通が少数の「技術ゲートキーパー」に集中することを通信パターンの実測で示した。翻訳者の最初の実証計測。翻訳者Ⅳ。
境界連結者・ナレッジ・ブローカー研究(1970年代〜) — 組織と環境の境界で情報を媒介する役割(boundary spanner)と、研究知と実務の仲介者(knowledge broker)の系譜。命名が分野ごとに断片化し、共有の一語に収斂しなかったことが本紙の論点(代表文献は出版判断時に特定)。翻訳者Ⅳ。
Kent (1964) "Words of Estimative Probability" — 見積りの確率語が読者ごとに全く異なる数値として読まれる事実の発見と、語と数値幅の対応表の提案。専門知の中核概念を決定者の言語へ翻訳する標準化の古典であり、定着しなかった経緯まで含めて教訓。翻訳者Ⅴ。
Huntington (1957)/Cohen (2002) — 文民統制の二つの答え。分離(客体的統制)に対し、コーエンは名宰相たちが軍事の専門領域へ執拗な質問で踏み込んだ「不平等な対話」を対置した。理事会とCIOの関係の範型。翻訳者Ⅴ。
Feynman (1986) ロジャーズ委員会報告・付録F/Vaughan (1996) — チャレンジャー事故。同じ機体の喪失確率見積りが技術者と管理層で三桁異なった記録と、逸脱の常態化の組織論。翻訳の失敗の最も精密な事故調査記録。翻訳者Ⅶ。
Gigerenzer & Hoffrage (1995) ほか — 条件付き確率を自然頻度形式に翻訳するだけで、医師の検査的中率の正答が数倍に増える実証。「わかりやすさ」が主観でなく正答率という従属変数を持つことを示した、翻訳効果の計測の到達点。翻訳者Ⅶ・数値例1。
プラトン『メノン』 — 探求のパラドクス(人は知らないものを探すことができない)。「知らない者は、尋ねない」の古典の錨であり、代理の問いの存在理由。翻訳者Ⅰ。
アナリティクス・トランスレーター(HBR 2018ほか) — データ科学と事業の翻訳者を職名化するコンサル業界の意図的な実験。帰属計測を設計できず半端に終わった経緯が、職能成立の条件(計測)の反面教材。翻訳者Ⅵ。
資料別紙 ⅩⅣ 知識生産の科学 — 論考別紙第11号の文献
総合という営みそのものを計測する研究線。論考別紙〔書架はなぜ空だったのか〕が参照する。いずれも記憶ベースであり出版判断時に原典確認。
Jones (2009) — 「知識の重荷」。知識の蓄積とともにフロンティア到達までの教育年数が延び、発明家が最初の発明に到る年齢が上がり、一人がカバーできる専門の幅が狭まることを計測した。「ルネサンス人の死」が修辞でなく計測の結論であることを示した、総合が個人に不可能化していく機構の正典。書架Ⅲ。
Wuchty, Jones & Uzzi (2007) — 数百万本の論文・特許の全数計測により、ほぼすべての分野で単独著者の優位が過去半世紀に消滅し、高い影響力を持つ仕事がチームの独占物になったことを示した。総合が学術の内側でさえ分業でしか維持できなくなったことの実証——分業を持たない実務家に総合が閉じていたことの、供給側の説明を支える。書架Ⅲ。
Uzzi, Mukherjee, Stringer & Jones (2013) — 千七百万本規模の論文について引用の組合せの「型破りさ」を計測し、最高の影響力を持つ仕事が「在来的な組合せの厚い骨格の上に少数の型破りな組合せを載せた型」であることを示した。新奇性は在来性の骨格の上でだけ価値になる——周知の主要結果への係留という本書の税関の、計量書誌学からの裏書き。書架Ⅵ。
資料別紙 ⅩⅤ 統計的決定とリスクの公理 — 数式の読み方・第Ⅱ部の文献
決める式(誤り率・停止規則・公理・縮小・契約評価)の背後にある教科書級の正典。論考別紙〔数式の読み方〕第Ⅱ部が参照する。デスムージング系(Getmansky–Lo–Makarov・Lo)はⅡ節に、推定誤差系(Black–Litterman・Jagannathan–Ma・DeMiguel他・Chopra–Ziemba)はⅦ節に既載。以下はいずれも記憶ベースであり出版判断時に原典確認。
Wald (1945/1947 Sequential Analysis ) — 逐次確率比検定。データが届くたびに「継続か判定か」を決めても、境界を事前に固定すれば誤り率が守られ、しかも平均所要標本数は固定標本の約半分で済むことを示した。「事前に書かれた解約基準とは、逐次検定の境界のことである」の数理的正体。数式Ⅻ。
Benjamini & Hochberg (1995) — 偽発見率(FDR)の概念と、その制御手順。多数を同時に検定するとき「警報の中の空振り率」を管理するという発想の転換で、多重性補正を実務に使える形にした。20の委託先を毎期検定する監督への直接の道具。数式Ⅻ。
Baks, Metrick & Wachter (2001) — 腕前への事前信念を明示した上でのベイズ的ファンド選択。「どれほど懐疑的な事前分布でも、投資に値するファンドは存在しうるか」を定式化した、選定理由書のベイズ統計版の先例。数式Ⅻ。
Artzner, Delbaen, Eber & Heath (1999) — 整合的リスク尺度の四公理。リスクの物差しそのものに検収基準を与えた古典で、VaRが劣加法性を破り分散投資を罰しうること、期待ショートフォールが公理を満たすことを示した。物差しの採否を審査する側の言語。数式ⅩⅢ。
Tasche (1999/2008) — オイラー配分の公理的正当化。成果評価(RORAC)と整合する資本・リスクの配分はオイラー配分に限られることを示し、「リスク寄与度で分ける」実務に一意性の裏書きを与えた。数式ⅩⅢ。
Ledoit & Wolf (2003/2004) — 縮小共分散推定。標本共分散行列と構造化された錨の凸結合が、推定誤差の下で標本行列そのものを支配することを示した。「賢い縛り」の直接実装であり、制約=縮小(Jagannathan–Ma・Ⅶ節)と同じ思想の推定側の版。数式ⅩⅣ。
Metrick & Yasuda (2010) — PE報酬契約の現在価値分解。キャリーをオプションのポートフォリオとして評価し、2/20の現在価値の過半が成績と無関係な固定側にあることを示した。「再計算できない報酬は、監督されていない報酬である」への、評価技術の供給。数式ⅩⅤ・報酬という憲法。
Hüther, Robinson, Sievers & Hartmann-Wendels (2020) — Management Science 66(4)。米国VC契約85本の71%が案件別型。案件別型のファンドのグロスIRRは約14ポイント高く、観測可能な質で差の約3分の1が消える——残りが選別か誘因かは切り分けられていない。「案件別型が LP を害する」という単純な命題が実証では立たないことの根拠であり、案件別型では検査の設計がLP側の仕事になるという本紙の命題の裏面。報酬という憲法Ⅲ。
Kastiel & Nili (2023) — "The Rise of Private Equity Continuation Funds," ECGI Law Working Paper 733。継続ファンドの機構と利益相反を法学の側から整理し、移行時にGPがキャリーを結晶化させると、そのキャリーはもはや清算時のクローバックに服さなくなることを明記する。返還条項が回避される経路の最も明快な係留。報酬という憲法Ⅲ。
資料別紙 ⅩⅥ 統治能力と判断の科学 — 論考別紙第16号の文献
AI時代の統治能力論——責任の非委任性・贋作防御・裁可者の製造と選抜——の背後にある研究線。論考別紙〔裁可者の育て方〕が参照する。安全工学系(Vaughan・Rasmussen・Reason・Dekker・Weick–Sutcliffe)は同紙の参考文献を参照。以下は書誌照合済み(確認の台帳CB16・2026年8月。末尾の未決の台帳系6項は台帳CB-30・2026年9月)。
Goodhart (1975) — 「測度が目標になると、よい測度であることをやめる」の原典(金融政策論として。安定引用形は1984年Macmillan再録)。一般形の定式はStrathern (1997) 。指標は必ずハックされる——ゆえに指標を判定でなく警報線として使い、回転させる設計の出発点。裁可者Ⅵ。
Campbell (1979)/Muller (2018 The Tyranny of Metrics ) — 計測が意思決定に使われるほど計測対象が腐敗するという社会科学版の定式(キャンベルの法則)と、その大衆化。診断はここまでが先行——第16号は半減期・回転・内周という運用設計で先へ進む。裁可者Ⅵ。
Kahneman & Klein (2009) — 直観的専門性が育つ二条件(妥当な手がかり・速いフィードバック)を、懐疑派と信頼派の共著で確定させた合意論文。資産運用統治はこの条件を満たさない——ゆえに裁可者の製造はフィードバックの人工製造(判断台帳)になる。裁可者Ⅷ。
Hogarth (2001 Educating Intuition ) — 「親切な学習環境・意地悪な学習環境」の語彙の初出(通説。二項枠組みの定式化は Hogarth–Lejarraga–Soyer 2015)。経験が判断力でなく迷信を育てる環境の命名。裁可者Ⅷ。
Klein (1998 Sources of Power ) — 自然主義的意思決定。熟達者の直観が確率計算でなくパターン認識と心的シミュレーションで働くことの実地研究。梯子と台帳が「渡す」べきものの中身。裁可者Ⅷ。
Tetlock (2005)/Tetlock & Gardner (2015) — 専門家予測の長期実測。自信と較正が乖離し、最も断定的な者が最も較正の悪い側に分布する事実と、較正の訓練可能性。選抜で読むべきは弁舌でなく較正の実績、の実証的根拠。裁可者Ⅸ。
ten Cate (2005) — EPA(信任可能な専門活動)の初出。段階的信任の梯子——副署から単署へ——を医学教育が実務標準化した出発点であり、裁可の梯子が発明でなく輸入であることの証拠。裁可者Ⅷ・Ⅻ。
Orlander, Barber & Fincke (2002) — M&Mカンファレンス(合併症・死亡症例検討会)の構造と学習効果の研究。罰なしで過程を解剖する定例の場——判断台帳の事後検討の原型。裁可者Ⅷ。
Power (1997 The Audit Society ) — 検証の儀式化。監査が実体の代わりに「安心」を生産する構造の古典的診断。第16号Ⅳ(外観の経済学)の先行者であり、新しさが診断でなく処方の側にあることの座標。裁可者Ⅳ・Ⅻ。
Meyer & Rowan (1977) — 組織は実務から切り離された形式構造を「神話と儀式」として採用する(デカップリング)。統治の外観と実体の乖離の組織社会学的原典。裁可者Ⅳ・Ⅻ。
Spence (1973) — シグナリング理論。偽造に費用のかかる信号だけが情報を運ぶ——却下の台帳・打ち切りの署名・未確認の明示という贋作防御五装置の理論的親。裁可者Ⅴ・Ⅻ。
Matthias (2004) — 「責任ギャップ」の初出。学習する機械の行為は誰にも公正に帰責できない空隙を生むという問題提起。第16号Ⅱはその法実務側からの返答(法はギャップを認めず、人へ集約し続けている)。裁可者Ⅱ・Ⅻ。
Elish (2019) — モラル・クランプル・ゾーン。自動化システムの失敗で、制御権を持たない最寄りの人間が衝撃吸収材のように責任だけを吸収する現象。責任の集約が統治になる条件(権限・情報・帯域)を要求する、第16号への最良の反論にして補強。裁可者Ⅻ。
Clark & Urwin (2008) — 年金基金ガバナンスのベストプラクティス。統治予算・理事会力量という語彙でAO統治を学術の対象にした最近接の先行研究(Ambachtsheer 2016と併読)。AI時代の能力論と後退の終端は扱わない——そこが第16号の持ち場。裁可者Ⅻ。
Lakatos (1976 Proofs and Refutations ) — 数学的発見の論理を教室対話篇で実演した古典。証明は完成品でなく反例との問答の中で鍛え直される——真理の終端が問答である伝統の現代側の代表。裁可者Ⅺ。
Dekel, Lipman & Rustichini (1998) — 標準的な状態空間モデルの内側では非自明な無自覚(unawareness)を表現できない、の定理(Econometrica)。「わからないことが、わからない」の形式化——不可能なのは本人の内側で閉じたモデルであり、視野は外側の装置からしか調達できない。一般化空間での表現可能性は Heifetz–Meier–Schipper (2006)。裁可者Ⅹ・Ⅻ。
Karni & Vierø (2013) — 逆ベイズ主義。自覚が広がった日に信念をどう改訂するかの公理化(AER)——未決の台帳の第三項「改訂経路」の理論版。裁可者Ⅹ・Ⅻ。
Baron & Hershey (1988) — 結果偏向の古典。同一の決定過程が結果の良否で異なる評価を受け、被験者は「結果で裁くべきでない」と認めながらなお裁く(2023年に追試成功の登録)。決定の品質が決定の日に観測できないことの実証的裏面。裁可者Ⅹ。
Pronin, Lin & Ross (2002)/Scopelliti et al. (2015) — 盲点の非対称の原典と、その測定・帰結(Management Science)。内観は偏った思考過程を露出せず、盲点の強い者ほど矯正訓練の効果が薄い——「未決の明記は、徳ではなく、制度の出力である」の直接の実証。裁可者Ⅹ・Ⅻ。
Klein (2007)/Mitchell, Russo & Pennington (1989) — プレモータムと予見的後知恵。「起きたとする」と確定させるだけで理由の産出が約三割増える——様式が視野を出力することの定量例。裁可者Ⅹ。
Aven (2013)/ICD 203/IAS 1 §125/PCAOB AS 3101 (2017) — 未決の明記の制度実在群。リスク学の「知識の強さ」・情報分析の蓋然性と確信度の分離・会計の見積り不確実性開示・監査のCAM——検証を職業にした四領域が、署名に結合した未決の明記へ独立に収斂した。欠けているのは資産運用統治の側、が第16号Ⅹ小節の出発点。裁可者Ⅹ。
資料別紙 ⅩⅦ 非対称の経済学と圧縮の歴史 — 論考別紙第12号の文献
「AIは知識格差を激減させる」という見立てを四層に分解し百五十年の圧縮史に照らす論考——論考別紙〔非対称の年代記〕——が参照する研究線。書誌・主要数値・エピソードの細部は照合済み(確認の台帳CB12・第1回23点+第2回16点・2026年8月。追補1点=Goldstein 2026は2026年8月14日に原典URL照合)。初期に流布した証拠の一つ(Kim–Muhn–Nikolaev)は検証のため取下げられており解題に含めない——経緯は同紙Ⅴと〔検証の記録〕訂正目録を参照。
Akerlof (1970) — レモン市場。品質を買い手が判定できないとき良品が退出し市場が縮退する。情報の非対称の理論の出発点。非対称Ⅱ。
Hayek (1945) — 知識は社会に分散し、価格がそれを集約する。集約装置としての市場という知識観の原点。非対称Ⅱ。
Grossman & Stiglitz (1980) — 情報的に完全に効率的な市場は均衡として存在しえない。「激減」の理論の天井であり、調べる者の席数の縮小と存続を同時に予告する定理。非対称Ⅱ・Ⅶ。
Townsend (1979) — 費用のかかる状態検証が契約の形を決める。AIが検証費用の関数を変えるなら変わるのは契約と統治の形である、の理論的根拠。非対称Ⅱ。
Darby & Karni (1973)/Dulleck & Kerschbamer (2006) — 信用財の定義と、診断する者と処方する者が同一であるときの誘惑の構造。運用助言を医療・修理と同列に置く語彙。非対称Ⅰ。
Gabaix & Laibson (2006)/Carlin (2009) — 覆い隠しの均衡と戦略的複雑性。非対称の一部は需要側の限界ではなく供給側の製品である、の定式。非対称Ⅱ・Ⅳ。
Christie & Schultz (1994)/Christie–Harris–Schultz (1994) — NASDAQ奇数1/8気配回避の発見と、報道翌日のスプレッド急収縮。計測と制度が非対称を崩した正典的エピソード。非対称Ⅲ。
Edwards–Harris–Piwowar (2007)/Bessembinder & Maxwell (2008) — TRACE後の社債取引費用の構造的低下。透明化の「沈殿」の実証。非対称Ⅲ。
Sharpe (1991)/French (2008) — アクティブ運用全体の算術と、探索費用0.67%/年の計測。パッシブ=ゲームからの退出の合理性。非対称Ⅲ。
Célérier & Vallée (2017)/Henderson & Pearson (2011) — 仕組商品の見出し利回りと複雑性のテキスト分析。「複雑性の再生産」の精密な実証。非対称Ⅳ。
Mullainathan–Noeth–Schoar (2012, NBER WP) — 助言の覆面調査。助言は非対称を埋める装置ではなく、非対称に価格をつける装置になりうる。非対称Ⅳ。
Gennaioli–Shleifer–Vishny (2015) — Money Doctors。助言者が売るのは知識ではなく不安の引受け。AI波でのフィー再価格の予測の核。非対称Ⅳ・Ⅶ。
Goyal & Wahal (2008)/Jenkinson–Jones–Martinez (2016) — 機関の雇い解雇と推奨の事後成績。機関投資家もまた非対称の買い手側にいることの実証。非対称Ⅳ。
Philippon (2015)/Greenwood & Scharfstein (2013) — 金融仲介の単位コスト約百三十年の不変と、金融業の拡大の解剖。イタチごっこ仮説の実証的援軍。非対称Ⅸ。
Bertomeu–Lin–Liu–Ni (2025)/Cheng–Lin–Zhao (2025) — 伊ChatGPT禁止と大規模障害の自然実験。専門家自身が既にAIに支えられ、その喪失は情報環境の弱い側を最も傷つける。非対称Ⅴ。
Blankespoor–Croom–Grant (2026)/Ecker他 (2026)/D'Acunto他 (2019) — 生成AI・ロボアドの便益は利用者の洗練度に比例して偏る。配分の非中立の実証群。非対称Ⅴ。
Agrawal–Gans–Goldfarb (2018) — 予測は安くなり、補完財の判断は高くなる。「知識が安くなるほど、確かめる作法は高くなる」の一般形。非対称Ⅴ。
Goldstein (2026) — 大部分をLLMが執筆した Philosophy & Public Affairs 誌掲載論文。査読はAI関与を検出できず、争点は検出から開示の到達性へ移った。④検証の非対称の一次実演(対=Kim–Muhn–Nikolaev取下げ)・生成と裁可の分業の最初期掲載実績。非対称Ⅴ・裁可者Ⅻ。
資料別紙 ⅩⅧ 安全の科学 — 論考別紙第14号の文献
原子力・航空・宇宙・医療が半世紀かけて制度化した「失敗の科学」から、公正文化・報告制度・漂流の監視を輸入する論考——論考別紙〔壊れ方の科学〕——が参照する研究線。書誌は照合済み(確認の台帳CB14・2026年8月)。節ⅩⅥ(統治能力)の安全工学系5点と一部重複する。
Heinrich (1931)/Manuele (2011) — 1:29:300比率の原典と、その二神話(比率の普遍性・不安全行動主因88%)の分析的否定。ニアミスは重大事故の予測器でなく組織劣化の温度計、の根拠。壊れ方Ⅱ・Ⅶ。
Perrow (1984 Normal Accidents ) — 相互作用複雑性×密結合のシステムでは事故は正常である。結合の監査という輸入品の原典。壊れ方Ⅲ。
Weick & Sutcliffe (2001) — 高信頼性組織の五特徴。構造のペローに対する文化のHRO。壊れ方Ⅲ。
Vaughan (1996) — チャレンジャーの逸脱の正常化。悪人の不在と、「今回も大丈夫だった」が仕様に繰り込まれる機構。壊れ方Ⅳ。
Rasmussen (1997) — 安全境界への漂流モデル。効率圧力が運転点を見えない境界へ押す——金融では漂流に報酬が付く、の下敷き。壊れ方Ⅳ。
Snook (2000)/Hopkins (2000) — practical drift の事例研究と Longford の組織論的分析。漂流と監査の儀式化の実地記録。壊れ方Ⅳ・Ⅶ。
NASA ASRS(1976–) — 限定免責・第三者運営・物語データ・CALLBACK。罰する者に告白は集まらない、への制度的回答の正典。壊れ方Ⅴ。
Marx (2001)/Reason (1990・1997)/Dekker (2007) — 過失三分類の定式(Marx)・責任判定の決定木と代替テスト(Reason、原型Johnston)・司法化への批判的展開(Dekker)。公正文化の三本柱。壊れ方Ⅵ。
IOM (2000 To Err Is Human ) — 誤りは人でなくシステムに宿る。医療への移植の画期=移植可能性の実証。壊れ方Ⅱ。
CAIB (2003) — 二度目のNASA事故を同じ概念群で説明した公式文書。「原因は組織である」の確定。壊れ方Ⅱ。
WASH-1400 (1975)/Leveson (2011)/Hollnagel (2014) — 確率論的リスク評価の頂点と、その後のシステム理論・Safety-II。輸入学の税関(禁輸品①)で限界を論じる対象。壊れ方Ⅱ・Ⅶ。
畑村 (2000『失敗学のすすめ』) — 失敗情報は隠れたがる・失敗は拡大再生産される。日本語圏での大衆化。壊れ方Ⅱ。
Campbell & Sigalov (2022)/Andonov–Bauer–Cremers (2017) — 利回りへの手伸ばしの理論と、積立の劣る公的年金のリスクテイク実証。金融の漂流は速い——漂流に報酬が付く——の係留。壊れ方Ⅳ。
資料別紙 ⅩⅨ クレジット運用の評価と円建て市場 — 論考別紙第24号の文献
円建てクレジットの運用評価を検証の非対称の各論として解剖する論考——論考別紙〔テールは誰のものか〕——が参照する研究線と一次資料。書誌は照合済み(確認の台帳CB33・2026年8月)。選定実証の既収分(Goyal & Wahal 2008・Jenkinson, Jones & Martinez 2016)は既存節と重複するため再掲しない。巻ラベルはテールⅠ〜Ⅷ。
Goyal, Wahal & Yavuz (2024) — 人脈接続の運用者は採用されやすく、その効果は過去成績と同程度・事後成績を高めない。選定の駆動要因の第三項(成績・人脈・防御可能性)の実証。テールⅢ。
Stewart, Neumann, Knittel & Heisler (2009) — 資金流入したプロダクトはその後1・3・5年で流出側に劣後(1984–2007・約8万観測)。機関の配分変更の総体的費用。テールⅥ。
Ben Dor et al. (2007) — DTS。スプレッド変化は水準に比例し、超過リターンのボラはDTSに線形——スプレッドの尾の計測言語(伝統編第2章と重複収載)。テールⅣ・Ⅶ。
Israel, Palhares & Richardson (2018) — 社債超過収益の横断面をキャリー・ディフェンシブ・モメンタム・バリューの4特性が説明。分解の道具の到達点。テールⅥ。
Asvanunt & Richardson (2017) — クレジットリスクプレミアムの実在(IG 137bp/年・シャープ0.37・1936–2014)。テールを取ること自体は誤りでない、の出発点。テールⅡ・Ⅴ。
Ellul, Jotikasthira & Lundblad (2011) — 規制制約下の保険会社による格下げ債の投げ売りと価格の一時的歪み。順逆転規則の排除(三条件②)の実証根拠。テールⅤ。
Koijen, Moskowitz, Pedersen & Vrugt (2018) — キャリーの収益は景気後退・流動性・ボラティリティへの共通エクスポージャーを負う。クレジットの負の歪度側の正典。テールⅡ。
Duarte, Longstaff & Yu (2007) — 債券アービトラージの多くはむしろ正の歪度=スチームローラー俗説への反証的留保。負スキューの典拠に使えないことの記録ごと収載。テールⅡ注記。
Ochi & Osada (2024, BOJ WP 24-E-05) — 国内社債の持ち切り構造と流通市場の薄さの一次言明。時価で競争する運用者は少数派、の係留。テールⅣ。
Suganuma & Ueno (2018, IMES 18-E-04) — 日銀社債買入のスプレッド押下げ実証(5,614銘柄)。買入終了後に均衡の条件が動きうる、の背景。テールⅧ。
R&I/JCR デフォルト率調査(2025・2026) — BBB格以上の年間デフォルト率15年連続0%・累積の実数・デフォルト先は5年前まで中央値BBB−。テールの標本の不在と格付け遅行の、格付会社自身の統計。テールⅣ。
厚労省ガイドライン/PFAハンドブック/アセットオーナー・プリンシプル(2024)/GPIF評価様式 — 官民一貫の「過去実績のみ禁止・定性総合評価」の様式群。GPIFは2017年11月に定性主へ。様式と実態の乖離(Ⅲ)の様式側の一次資料。テールⅢ。
黒沢(信用格付研究2号)/日大産業経営研究所報告30号(2006) — 内外格付けの平均2〜3ノッチ差の持続と、マイカル破綻時のJCR単独投資適格の記録。物差しの確認から始めよ、の係留。テールⅣ・Ⅵ。
Keynes (1936) — 『一般理論』第12章。評判のためには、型どおりに失敗するほうが型破りに成功するよりよい。題辞——評価者の経済学の九十年前の先取り。テールⅢ。
資料別紙 ⅩⅩ 見えざる貸借 — 三部作(デリバティブ・通貨・貸借と保管)の文献
〔持たずに持つ〕〔借りずに借りる〕〔貸さずに貸す〕の三部作が参照する研究線と一次資料。書誌は公開に先行して原典URLで照合済み(2026年8月・撤回論文一件の検出を含む——記録は〔検証の記録〕)。巻ラベルは持たずⅠ〜Ⅻ・借りずⅠ〜Ⅸ・貸さずⅠ〜Ⅺ。
Working (1953) — ヘッジはリスクの消去ではなくベーシスへのポジションの交換であるという古典的定式。持たずⅡの理論の起点。
Froot, Scharfstein & Stein (1993)/Stulz (1996) — 内部資金が外部より安い主体ではヘッジが投資能力を守る/リスク管理は下方尾部の切除である——企業金融のリスク管理理論の二本柱。持たずⅡ。
Culp & Miller (1995)/Mello & Parsons (1995) — メタルゲゼルシャフト論争。ヘッジの正しさと資金繰りの安全が別物であることの教科書的対論。持たずⅩ。
Koski & Pontiff (1999) — デリバティブを使う投信のリスク・成績は非利用と大差なし——「道具は使い方の関数」の実証。持たずⅡ。
Sen (2023) — 規制の物差しの差が保険会社の金利ヘッジ行動を分岐させる——規制がヘッジを形作ることの実証(RFS)。持たずⅤ。
Koijen & Yogo (2022) — 変額年金保証の脆弱性——保険会社のデリバティブ・ヘッジの限界の実証(JF)。持たずⅤ。
Perold & Schulman (1988)/Froot (1993) — 「ヘッジはフリーランチ(ヘッジ済みを既定に)」対「長期ではヘッジするな(購買力平価回帰)」——前提が答えを決める通貨理論の第一の対。借りずⅦ。
Campbell, Serfaty-de Medeiros & Viceira (2010)/Black (1989)/Michenaud & Solnik (2008) — 通貨による(共分散で決めよ)・均衡の共通部分ヘッジ・後悔最小化の中庸——通貨理論の残る三答。借りずⅦ。
Borio, McCauley, McGuire & Sushko (2016) — カバー付き金利平価の恒常的破れと通貨ベーシス=規制バランスシートの賃料。四半期末スパイクの主典拠(BIS QR 2016年9月号)。借りずⅢ。
BISの「見えない債務」系(2017・2022) — 為替スワップ・フォワードの先渡返済義務は米国外ノンバンクで26兆ドル・オンバランスの2倍——見えない借金の公式計測。借りずⅢ。
Baba & Packer (2009)/Goldberg, Kennedy & Miu (2011) — 2008年のドル調達逼塞と中銀スワップライン——ロール危機の先例の一次計測。借りずⅣ。
McDonald & Paulson (2015) — AIGの事後検証——証券貸付の損失約210億ドルはCDSと同一の住宅エクスポージャーの第二の現れ(JEP)。貸さずⅣ。
Hu & Black (2006) — エンプティ・ボーティング——議決権と経済的利害の分離の法学正典。貸さずⅤ。
Aggarwal, Saffi & Sturgess (2015) — 議決権基準日前に貸株が体系的に引き揚げられる——リコール実務の市場データ実証(JF)。貸さずⅤ。
Kaplan, Moskowitz & Sensoy (2013) — 貸株供給のランダム化実験——供給増は価格を害さない。「貸すな」論への最良の均衡錘(JF)。貸さずⅤ。
D'Avolio (2002)/Duffie (1996) — 貸株料の分布とスペシャル/レポ・スペシャルの理論——貸借の価格の実証と理論の入口。貸さずⅤ・Ⅷ。
Gorton & Metrick (2012)/Copeland, Martin & Walker (2014)/Krishnamurthy, Nagel & Orlov (2014) — どのレポが取り付けたか——二者間ヘアカット急騰・トライパーティの崖・資金の出し手側の計測の三点セット。貸さずⅧ。
Singh(IMF・再担保と担保の速度) — 保管された資産が金融システムの見えない資金調達に転じる機構の定量化。貸さずⅧ・Ⅸ。
ESMA (2012)/FSB (2013) — 費用控除後の全収益のファンド帰属・いつでもリコール可能(UCITS)と、現金担保再投資の最低基準(勧告6)を含むSFT国際枠組み——付随収益の検収の規制正典。貸さずⅢ。
CPSS-IOSCO PFMI 原則16(2012)/Chan, Fontan, Rosati & Russo (2007) — カストディ・リスクを正面から規定する最上位の当局文書と、カストディ産業の構造を扱う数少ない中央銀行系論文——保管の学術層の薄さの、例外の側。貸さずⅨ。